50

「失敬しちゃうなあ、ユーカイじゃないって」
「じゃあなんだと言うんだ…僕らに娘は出来ないのだよ」
「友達だって、さっき会ったんだよ」
「……どこで?」
「え、路地裏」
「このバカ!!」

パン、と頭を叩かれて大げさにテンニーンが「いってえ」と叫べば、少女はストラップを見ていた視線を不安げに上げる。
店員も訝し気な視線を向けるが、銀髪の青年の整った顔立ちと出で立ちに、痴話喧嘩かもしれないと口を挟まずココロにのみ声をかけた。正しい選択である。

「一体どこの子を連れて来たんだい君ってやつは!親御さんが心配なさってるだろうに!」
「してねーと思うけどな」
「…何故そう思う?」
「だって男四人と旅してるんだってよ。しかも、あんまりよく知らない」
「………それは…その…誘拐かい?」
「あー…なる〜?」

いやでも、それにしては親を恋しがる姿は見られない。
ちらと紐の色を薄い水色と紺、それから白に決めた少女は、テンニーンにむけてちょいと手招いた。悪戯を仕掛ける前のような含み笑いを持っているので、テンニーンは何か面白い事をしようとしているのだろうかと膝を折ってココロの唇に耳を寄せる。

「あのね、テンニーンくんのもつくっていい?」
「俺の?」
「うん、おともだちだから…だめ?」
「え〜マジぜんぜんいいよ〜!あんがとね〜!」

俺とココロちゃんとでお揃いの色にしよ、とすっかり先ほどの銀髪の青年が危惧していた色々なことを頭からすっぽぬかして自分の髪と同じ赤紫と、少女の驚くほど金色の髪に似た糸を探す方に考えが向かった。
当然、そんな事が許される筈もなく、銀髪の青年の方が直ぐに彼の首根っこを掴んで持ち上げる。

「大事な話の途中なのだが?」
「いやもうフォーちゃん怒りすぎ〜。なんか怒りすぎるとこう…コウケツアツで血管が千切れたりするらしーよ?」
「じゃあ怒らせないでくれたまえ!」

ピリとした空気にストラップを作るために少女と話していた店員が、引きつった笑みを作ったまま硬直する。完全に彼は被害者だが、ココロは兎も角目の前の二人の男はただの人間ではないので、一般常識など通用しようもない。
もし店の前で喧嘩になるなら警察を呼ぶかと、店員が電話に手をかけたその時、ココロはテンニーンの前に出て両手を広げた。

「おこらないで!テンニーンくんはわるくないの!
ココロがこまってたら、たすけてくれたのよ!いじめたらダメ!」

少女が鬼気迫る表情でそう言って、小さな体を精一杯に伸ばして見せる。
そうすると、フォーちゃんと呼ばれた青年の方は先ほどの冷たい苛立った表情が一気に霧散して、オロオロとした様子で少女に向き直る。

「…え、ええと。すまない、虐めている訳では無いんだ…彼は少し勝手…いや、その奔放すぎるところがあって…」
「えーん、フォラーズがいじめるよう〜」
「ええい!ノるな!」

二人の会話が喧嘩でなく、ベータとデルタにもよくある『ただの仲良しさん同士の見かけだけ小競り合い』なのだと理解したココロは、背後の喧騒を華麗に聞き流して、手作りのミサンガの作成を開始していた。
店主も少女の頑張りの方に視線を向けていたので、もう大男二人の事は忘れようとしていたし、その方が賢明であった。
どうせ少女がこっそり、もう一人の銀髪の青年の分まで健気にも作成していることを知れば、喧嘩など納まるだろうと店長は考えて居たし、事実その通りであった。


「おお、器用なものだな…!」
「すごおい、ココロちゃんてんさ〜い!」
「えへへ…」
「うん、素晴らしい!店主!倍払おう!」
「ま、まいど…」

変なテンションの観光客に絡まれた店長の心労は兎も角、案外平和に収まったことに周囲はほっと胸を撫で下ろした。
大人達は小さな保護者様に感謝して、去っていく凸凹の影を静かに見送った。
prev | next
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -