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<ヨスガはトレーナーはもちろんのこと、コーディネーターも集まる大きな街だけあって、様々なものが手に入る。
増えた手持ちの連中も、街を散策したがる程度には広い。
明るく煌びやかな街には、その強い光に充てられて暗く大きな影もできるものだ。>

<妙な連中に追いかけられて居た子供をわざわざ助けたらしい。烈火と瑠輝がやたらと保護を申し出るので、面倒で許可した。
よく聞いてみれば、ポケモン達の社会では中々地位があるようだ。と、するなら、それなりに使えるかもしれない。存外悪くない拾い物である。>

<烈火がよく笑うようになった。瑠輝や呪解、それに新しくやってきたポッチャマのお陰だろう。
お前が強くなるにはそれは必要ないと、そう考えているのに、非情に振る舞えないのは彼の作る食事が美味いせいだ。きっと。>

<こんなことを書くつもりはなかった。今日はもう止めよう。>


「………」

ヨスガに着いて暫く、滲み出てきた主の書体は確かに乱れ、言葉にも勢いがない。それに、少しずつだが確実に彼の非情で冷徹な主人としての仮面の裏にある、ただの青年の部分が露呈してきているようで、アルファの内心も同じく乱れた。
彼のそう言った面を見ることは嫌だとも、良いとも思えない。そう感じてしまうこと自体、自分の狭量さを思い出させるには十分であると言えた。

「ひろおい!」
「ホントだね〜」
「ウロウロすんなよ、ガキ二匹」
「うるせっ!カンケーねーだろ、ぺっぺ!」
「ガンマくん、おこんないで…」
「やっだあ〜!怒ってないよお
「キッツ…」
「お゛ぉン?!」

随分と打ち解けたらしいベータと、相変わらず子供に甘いガンマの言葉を諌める少女の姿は、あまりに親しく見える。何も知らなければ彼らとココロは歳の離れた兄妹か、或いはポケモンとトレーナーの関係に見えているに違いない。
アルファがそんな風に考えるのと同じく、デルタもその事を考えて居たのか眉間に皺を寄せた。少し前、正確に言えばベータがココロを連れて帰還した後から、デルタの雰囲気は著しく剣呑になっている。
隊長たるアルファにもそのことはわかって居たし、そうなる理由も察しがついて居たが、かける言葉は見当たらない。彼の本心、柔らかな心の内側は主人と出会うより前にもとよりひび割れていて、おいそれと突けば壊れてしまうのだと理解して居た。
冷たい言葉や淡白な態度は、繊細な自らを守る鎧にすぎないのだ。

「あまり長居しても仕方ない、すぐにズイに抜けて」
「いい、平気。キャンプで保存食も切れてきたし、買い出ししないと。
ポケセン、じゃなければ、泊まるところなんて、いくらでもある、し」
「…デルタ」
「ヘーキって言ってる」

大都会、それも人混み溢れる雑多な、裏と表のある都市ともなれば彼にとっては大地雷。蒼白な顔を見てアルファが声をかけても、デルタは自分のトラウマ一つで現状を覆すつもりはないらしい。
自分のことを語りたくないというのは、アルファにも理解できたし、このチームの半数は彼と同じ意見を持つはずだ。

「一日だけだ、たった一日」
「…ス、…はあ、ヘーキってさっきからずっと言ってんでしょ、しつこい」
「そうだな、悪かった」
「…まあ、お気遣いどーも」

ふん、と鼻を鳴らして胸の前で腕を組むと、デルタは無理やり笑みの形を作った。口の端だけ無理やり上げたような、不器用なそれだが、これ以上突っ込むのは野暮である。
ましてや、彼とは友人ではなくただの同僚である。それも一応の形は上司と部下。
小さく頷いてから随分と打ち解けた三人の姿を目で追いながら、アルファはヨスガでの一時的な滞在所に行く目処をつけるために手元の地図を開いた。
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