26

哲水改めフィロソフィーは、エンペルトだと言う。
このシンオウを旅した主に保護され、偶々手持ちとなった過去を持つそうだ。

「少し、見解は違う。
俺を保護したのは烈火であって、×××はそれを認めただけだ」

ヨスガで追手に襲われていたポッチャマのフィロソフィーは、烈火に助けられた。その結果として主の手持ちとなっただけで、主従関係を結んだつもりはないと言う。
変わった関係性だとアルファが内心ぼやいていると、ベータが彼の話に口を挟む。

「助けて〜って言って、助けるって?マジで言ってるのか、アンタ。
あの男ほど淡白で自利的な奴は見た事ないぞ」
「自利と言えば自利ではあるだろうな、俺は出身柄金がある。
まあ、あの時はそれだけではなかったろうがな」
「勿体ぶった言い方しやがる、腹が立つね」
「俺も、お前のような“自分がこの世で一番不幸だ”と言う被害者面をした奴を見ると、無性に腹が立つな」

フィロソフィーの冷たく突き放した言葉に、ベータの表情は変わらずともその腕は堪らず彼の襟首を掴んだ。膝の上にいるココロが、驚いて小さく跳ねる。
それを見て、アルファは掴み上げた彼の手首を握って、軽く捻る。そうすると、襟首を掴み上げていたベータの手は痛みからパッと離れた。

「お前は喧嘩売らずに話せんのか」
「…チッ」
「血気盛んな男だ、ああ…シャツに皺がついた」
「てっちゃん、だっ、だいじょうぶ…?」
「ああ、問題ない」

ぱっぱ、と埃を払うように手で皺を払うと、少女に“てっちゃん”と呼ばれて笑みを浮かべる。懲りずにベータがぼそりと「ロリコン野郎」と罵れば、何度目かの悪態にアルファはその頭に拳骨を一つ打った。これは教育である。

「悪いが、俺には心に決めた相手がいてな」
「すきなひと?」
「ああ、君もよく知ってる人だ」

少女は少し考えてから「れっちゃん?」と問う。
男同士だろうに、とアルファが言うより先に彼は静かに頷く。なるほど、そうらしい。

「なんで?なんですきなの?
もしかして、やさしくてきれーで、ごはんもじょーずだから、すきになっちゃった?」
「うーん、そうだな…。
一番は彼が俺を助けてくれた時に戦う姿が…あんまり綺麗だったからかもな」
「きゃーっ!」

幼なくとも女は女、ココロはフィロソフィーの言葉と態度に色めき立って声を上げる。合わせてベータの機嫌はどんどんと最下降していく。
色恋の話は恐らく、ベータとデルタには地雷である。

「ベータ、少し席を外したらどうだ」
「…オコトバニアマエテ」

棒読み気味に答えてからくわえ煙草をして去っていく。
アルファとて、ベータの過去を全て把握しているわけではないが、チームのメンツのある程度の地雷は認識しておく必要がある為最初に主から資料を貰ってはいる。
自分も含めて、皆脛に疵持つものであり、触れられたくない部分があるものだ。生まれてたった四年と言う月日が、もし全て無かったことになるなら、皆違う生き方を選べたろうか。時折、そんなことを考える。

(無意味なたられば話だ)


脳裏に過ぎ去って消える残影。
伸ばされた手。
俺を呼ぶ声。

ああ、か細い、女の。


『おねがい、一緒に…』


(…熄めだ)

ただただ、自分が惨めになるだけで何の意味もない。
二人の会話を聞きながら、ただこの時間が過ぎ去るのを待った。色恋に関してのトラウマは確かに、自分の中にも根付いているらしい。
気が付かれないよう、朗らかに話す二人から、ほんの少し、視線を逸らした。

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