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散々叫びはしゃぎ、やたらに周囲からの視線は痛いのに、アルファとベータはご丁寧に人の目の多い土産コーナーに行ったし、少女はそこにあるポッチャマのぬいぐるみを見て欲しがったりなどした。

「バカデカい」
「何とか別のにならんか」
「ポッチャマがいい!」

子供はこれと決めたらこれである。
少女の背丈よりちょっと小さいくらいのぬいぐるみを抱えてこれからの旅路何とか進むのか、と考えるだけで目が遠くなる。何度か上手く丸め込めないかと二人があくせくと口をまわしたが、結局そのぬいぐるみはバッグとしての活用もできるので言いくるめられたのはアルファの方であった。

「…目立つでしょうこれ」
「もう先の事を考えるな…」
「おてがみのやつもかっていい?」
「ああもう好きにしろ」
「隊長俺も飴買う」
「お前は自分で買え…」

アルファが呆れながら苦言を呈しても、ベータは顔色一つ変えずに買い物カゴに飴を入れたのでそれ以上言うまいと少女の方に視線を向ける。
レターセットを二つ掲げて、うんうん唸る。一つはポッチャマ柄で、もう一つはゼニガメ柄だ。

「ポッチャマがいいんじゃないのか?」
「うん。でも、れっちゃんリザードンだから、ゼニガメのがすきかなって」
「…なるほど」

カントーの御三家といえば、フシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメである。リザードンはヒトカゲから一つ挟んでの進化系、馴染みがあるのはゼニガメだろうと踏んだのだ。
ホームシックは緩和されたものの、こうして何かにつけて育ての親を思い出す程度には寂しいのだろう。

「れっちゃん、てがみだしたら…よんでくれるかな」
「…きっと、何度も読み返すだろうな」
「そうかな、…そうだといいな」

アルファの言葉に笑みを浮かべるとゼニガメのレターセットを掲げて、カゴに入れる。手紙の一つでも書けば、確かに気持ちの整理くらいはつくだろう。アルファはそう考えてカゴを会計に出そうと立ったが、横から伸びてきた腕がそのゼニガメ柄のレターセットをカゴから取り出した。
背後に忍び寄られたことでアルファが返しの裏拳を叩きつければ、横腹を狙った拳が男の手で受け止められてピタリと止まった。
少なくとも、この手を簡単に止めて見せたということで、相手が人でない事だけは明確に、アルファにも、先まで呑気していたベータにも理解できた。

「何者だ」
「落ち着け、喧嘩をしようと言うんじゃない」
「質問に答えろ」

ぎり、と拳が男の手のひらで抑え込みきれない力を放ち始める。二対一ともなれば危険なのは自分だが、男の表情には笑みすら浮かんでいた。
余裕の笑みというよりかは、呆れに近いだろう。

「お前達がその調子という事は、×××は最後までその露悪性を貫いたらしいな」
「!」

男の言葉に流石にアルファも息を呑み、その拳を収めた。
今までその名前を正確に呼んでいたのは、このレポート内に書かれたシンオウを旅したと言う主の手持ち以外にない。今読める範囲で書かれていたのは三匹まで、つまりまだ“空き”があるのだ。
勿論フルメンバーである必要性はないが、自分の知る主なら自分の身を守る為の武器は持てるだけ持つ人だ。

「俺がこれを抜いたのは、烈火には絶対にポッチャマの方がいいからだ。
しかしこのバッグを購入するとは、お嬢さん…なかなかの慧眼だ」
「え?えへへ…」
「…失礼を承知で伺いますが、もしや主の手持ちですか」
「そう、といえばそうだ。元だが」

それには瑠輝や呪解も含むが、と続けられて嘘とは思えず警戒はそのまま向き直る。ここにデルタがいなくて良かったが、然りとてココロの不安はこの一瞬で助長したのか、アルファの足元から離れず様子を窺っている。
三人全員に警戒されてか、男はフッとその唇の端を持ち上げてから「まあ、積もる話もある。外で話そうか」と数年ぶりに出会う友人のように話してから、まばゆいゴールドカードを取り出してみせた。



「…払っていただき、ありがとうございます」
「気にするな。
どうせあそこは俺の部下が働いているもので、それなりに融通が効くんだ」
「ありがとてっちゃん!」
「フッ、そう喜ばれると奢り甲斐がある」

周囲の視線はどんどん厳しくなっていたので、彼の言葉に乗って外に出た。その前にココロの購入した物品の数々を支払おうとしたアルファを退けて、目の前の色男がさらりとカード一括で払ってしまった。
これにはアルファも驚いたが、外に出てパラソル下のテーブルに着くより先んじて少女にアイスを買ってやっているのを見て、更に驚いた。懐柔する気か、と警戒する暇もなく懐柔されたココロは、すっかり哲水と名乗った男の膝の上である。

「では、哲水さん、」
「待て。
悪いが君にそちらの名で呼ばれたくはない。
本名のフィロソフィー、長くて嫌ならフィロ、とでも呼んでくれ」
「………はあ」

また妙な人が、とアルファが眉間に皺を寄せたのを見て、ベータは「面倒ごとに好かれますなあ、隊長殿は」と口を挟んだので、その隊長から横目で睨みつけられた。
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