あさのひとまく

※連載時代謎時空
恋愛要素なし



朝。始まりの朝。
夜になれば朝に起きる、大概のものはそうである。
例に漏れずアルファも朝(と言うには少し早いが)に目を覚まし、少しのランニングの後に帰ってきて朝食をとる。
この場面、大概朝食をとりにやって来るのは、アルファを除くとガンマとココロのみで、デルタは大概まだ寝ているし、ベータなら下手すると今から寝る。
時折五人全員で朝食をとると、ココロのテンションが最高潮にまで達して、朝から宴が始まるので朝は比較的ゆっくりしたいアルファとしては、帰ってきて風呂に入ってからいつも通りのメンツが庭でラジオ体操をしているのを見ると安心するものだった。

「おはよございまっす隊長!」
「アルファくん、おはよー!」
「おはよう。
二人とも、体操を終えたら朝食にするぞ」
「うす!」
「はあい」

快活で曇りのない返事をした二人は、言葉通りにラジオ体操を終えると、先に戻って行ったアルファに駆け寄る。トイレに起きてきたらしいベータが「イワンコみてえだな」と欠伸混じりに言ったが、気にするのはガンマだけで、小さな少女に宥められればその強張った顔を解いた。
朝から喧嘩は御法度だろう。

「ココロ、皿を出してくれ。ガンマはこれをテーブルに」
「了解!」
「はあい」

男四人幼児一人の生活において、料理をするのはデルタのみである。正確には料理をレシピなどを要さずに出来るのが、デルタのみだ。
レシピ通りにやるだけならアルファには出来るし、湯を沸かしてインスタントを作るくらいならベータにもできる。切ったり焼いたりするならガンマとてやれるし、なんならレシピの脳内数なら、父親代わりでもある“れっちゃん”に沢山詰め込まれたと言うココロが一番有望株だ。
では何故、料理をしないと断言するのかと問われれば、やはりデルタ以外にはその気がない。ココロは女の子らしく、時折料理をしたがるので、彼らがキッチンにまともに立つのはその手伝いの時くらいである。

なので今朝も、トースターでパンを焼いて、昨日買ったサラダを皿に盛り付けるだけの作業である。朝から手間をかけたくないのだ。
ココロがパンを乗せるようの、気に入りの皿を取り出している間に、サラダボウルをガンマがテーブルに持って行く。アルファは不恰好な目玉焼きとベーコンを軽く焼いて、出来上がると皿に盛り付ける。手慣れた作業だ。

が、今日は少しだけ予想外のことが起きる。
ココロはまだまだ幼い、小さなパン皿でも彼女にとってはそこそこな重さだろう。一度何かに足を取られると、つんのめって倒れるのは必然。

「あっ!」
「!」

室内というのは、案外何とも言えぬところでつんのめる事がある。スリッパの滑りが悪かったとか、敷いていたカーペットととの境目に引っかかるとか、そんなことで。
前のめりにひっくり返りそうになるココロを、フライパンを持つアルファが支えてやることはできない。当然、少し離れた位置にあるガンマも同様に。

「フンッ!」
「わ」

皿がわれて、そこにもし転べば大惨事である。しかし手は使えない。
咄嗟にアルファがしたのは、皿を浮かせて蹴飛ばすことだった。皿はキン、と言う音と共に吹っ飛んで、ゆっくり放物線上にくるくる回ってから、ココロから遠く離れたリビング床に落ちて割れた。

「…すまん、大丈夫か?怪我はないか?」

目を離した保護者が一番悪いのだ。油断していた。
彼女の気に入りの皿だったのに。
そんな気持ちでココロに駆け寄ると、ポカンとした様子のココロがアルファを見上げてから思わずとばかりに吹き出して、ケラケラ笑った。

「すごおい、くるくるまわってたあ!」
「たいちょお!なんか皿飛んできたけど平気?!」
「ちょっと今の音なに!?」

慌てた様子でこちらに駆け寄るガンマと、寝起き姿の般若顔のデルタがやってきて、アルファは困った様に首をかく。
久方ぶりの大失態である。

「すまん、俺が蹴った」
「皿を蹴ったァ!?朝から何やってんのお」
「もしかして近所で皿蹴り大会とかあんの?」
「いや、あったとして屋内ではやらんぞ」
「あっ、そっかあ!」
「皿蹴るなボケ!次やったらドタマカチ割るぞ!!」

馬鹿二人が間の抜けたたられば話をしていると、デルタが怒声を浴びせる。その怒りは御尤もである。怒り心頭と肩をいからせて帰っていくデルタの背中を見送ると、心配そうに此方を見上げるココロの頭を撫でた。
「食事をしたら皿を買いに行くか」と言うと、少しほっとしたようで、強張っていた顔を綻ばせた。


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