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ハナダシティからクチバシティに向かう段差道。そこを歩く少女が1人。
機嫌良く鼻歌付きだ。調子外れだが。
道中小さな花を摘んで、くるくると編んでいく。それをわっかにして、隣を歩くライルの頭に乗せた。
オレンジに白の花が映える。

「ライルちゃん可愛いよ」

「そっ、そうですか?」

ふわりと笑うと長身ながら少女らしさが際立つ。恥ずかしそうな、誇らしそうな顔で笑っていた。
途中、野生ポケモンを退けながら潮風の香るクチバシティに着いた。強い潮風に花輪の花弁が飛んでいく。ひらひらと散らしながらしょんぼりとライルは肩を落とす。
また編んであげるから。主の慰めの言葉に小さく頷いた。
逃げる花弁を捕まえて、真麻は押し花にしようと告げた。

「そしたらずっと見てられるよ」

「…はい!」

赤く染まる頬に散る花弁が舞う。
真麻は自分よりずっと美しく成長した少女に誇らしげな気持ちが起こる。彼女は昔から村1番の美少女だったのだ。
自分の手持ちになる前は。
今は他の子もいるからなぁ。真麻は何人か思い浮かべた。
そう言えばライルが付いてくると言わなければリユキも来なかっただろうことも思い出す。彼も心配性だから、と嫌に覚えている昔を思い出した。
ところで。

「おっちゃーん、夕方まで動かないの?」

「ダメだなぁ、船長が首を縦に振りゃしねぇ」

「そこをなんとか!」

「ダメだ!どっかで時間を潰しておいで!!」

と言うことで。
真昼の12時、まだたっぷり時間はある。
暑い、自らの呟きでマイナススイッチが入った。
明るいところにいたら死ぬ。
即行向かったのはディグタの穴。ヒャッホー!と奇声を上げて嬉しそうに暗闇に入る主をさすがに呆れてライルは見やる。
心酔はしているが心配もしている。

「マスター、虫除けスプレー撒いてから歩いて下さいね」

「ここ水溜まりにすればいいんじゃないの?」

「貴女はディグタ殺す気ですか!」

私はやりませんよ!僕の言葉に不満そうな声が上がるがライルは無視する。さすがにかなり遠い親戚みたいな相手を死に追いやることは出来ない。
シューッと主が撒くスプレーの嫌な匂いが広がる。自分はこの匂いが嫌いだ。
そりゃあポケモンだからだが。

「やったよー」

「よくできました。ところで、ここで何をするんですか?」

「ジュエル掘ろうかと」

「…カントーで出ますかねぇ」

ライルの言葉にやらなきゃわからない!と真麻は叫んで、スコップ片手に穴を掘り始める。
ライルは周りを見回す。暗闇からこちらを伺うモグラに威嚇して、手近な岩を蹴り壊す。壊れた破片から鈍く光るものを引っ張り出せば、それはとてもよく見慣れたものだった。

「元気の欠片…」

かなりお世話になっていた。
主に渡せば声を上げて喜ばれる。褒められた嬉しさににやけた。
こんなにたくさん主と過ごすのは久しぶりだ。いつもは保護者のリユキかパートナーのオウカが隣にいる。2人ともシンオウからの仲だから心配はないが、寂しさはあった。
今日はそれもない。

「マスターは何かありましたか?」

「全く。まあ穴掘り自体は面白いよ、子供に戻ったみたいで」

「はあ。私にはわかりません」

「でも何も見つからないから飽きてきたな。オウカちゃん呼んで【地震】してもらおうかな」

「貴女はこの穴を塞ぐつもりですか!」

本日2度目のツッコミを終えてライルは笑う。普段は自分の役割ではないから面白味がある。
クスクスと真麻も笑っているから本気ではなかったのだろう。
そうしてここを住み処にしている者達に少々迷惑をかけて。夕暮れの船着き場に戻った。

「お姉ちゃん、こいつはカイナ行きだが間違いないかい?」

「うんー、カイナまでよろしくお願いします」

「チケットは…お、珍しいチケットを持っているな」

「一応チャンピオンですからー」

にこやかに一部の人間しか持っていないチケットをぴらりと見せて、真麻は船に乗り込む。ほー、後ろで船乗りが感心したような声を上げた。
何人かのトレーナーがそれを聞き付けてバトルを申し込んでくるが、真麻は同じ笑顔で辞退する。隣をボディーガードのように歩くライルは頬に土を付けた主を見下ろし、わからないように笑った。
疲れて不機嫌モードだ。子供のような主が愛おしい。

「…マスター。部屋のシャワー、すぐに使えますよ」

「うん。入ってくるから見張りよろしく」

やや投げやりに言って真麻は風呂場に消えた。その扉の前に仁王立つ。
ありんこ一匹通すか。ボールから出てきたリユキが欠伸をした。
珍しく怠惰な幼馴染みをねめつける。

「ちょっと」

「俺は頼まれてないからな」

先手を打たれて足を踏み鳴らす。それにリユキは小さく笑った。
ライルはそっぽを向く。
後ろから真麻のシャワーを浴びる水音がした。








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