3


朝。自分の部屋と違って明るい。ぱっちりと目が覚める。横にはベッドに腰かける、昨日投げ出した地図を読むリユキがいた。
地図から目を離さないまま、リユキは呆ける真麻に声をかける。

「おい飯」


庭で軽い食事を取る。もそもその乾パンのような携帯食料は不味い。
言葉が見つからないくらい不味い。

「みんなは私の自作だからさー、美味しいのわかってるんだよね」

うらやましー、文句を言う真麻に艶々とした美しいシャンデラが1つ、自分のを持ってくる。むぐ、問答無用で口に詰めた。

「…ごめんね、君のは私の口に合わないからね…」

苦いね、言葉に頷くもシャンデラは次々と頭の炎に放り込む。
君の食べ方はクレイジーだよ。
口直しにパートナーのを1つ奪って口に入れた。オウカは冷たい目で主を見た。


リユキに股がって移動すると新米トレーナーがわらわらと勝負を挑んでくる。真麻は暑い光の中、面倒臭がってシャンデラを傍に浮かせて相手をさせる。
少し相手をすればすぐに黒焦げになるポケモン達を眉を下げて見て、もう少し相手を見て戦うよう説教した。
トキワの森で1回家に寄って、旅の支度をする。部屋からくすんだ色になってしまったホウエンのジムバッヂを取り出して。指先で撫でてバッグへしまう。それからきのみも収穫して専用の入れ物へ。1つつまみ食いして怒られた。

「…よし」

気合いと共に鍵を閉めて。見慣れたトキワの森を出る。未だお日様は頭の上だ。
それからたまに買い物に行くニビシティを抜けて山岳、狭い洞窟。見透す瞳を持つレントラーなら人間の瞳では見えない暗い道も平気だ。キャアキャアと煩いズバット達も、唸るリユキに近付いてこない。
傍にいるシャンデラも僅かに発光しており、完全には暗くないし。
真麻は危険のない暗い場所は大好きだ。機嫌良く鼻歌なんか歌っている。とても調子外れだ。それでも本人は楽しそうだった。
そうして抜けた先は赤い。夕日が赤く照らしていた。目指す先の町にはポケモンセンターがあったはず。

「リユキちゃんお疲れ様。こっからはゆっくり行こうか」

ぴょこんとリユキから降りて真麻は歩き出す。
そよそよと髭をそよがせて危険がないと判断したのか、リユキは人の姿を取り。浮かぶシャンデラをねめつけぴったりと真麻の隣を歩く。
赤い太陽に眩しそうに瞳を細め、額に巻いた布を少し下げる。キラリ、布に飾り付けられた星が照らされ光った。

「ひゃー、西日暑いね!」

「…おい、ノエルしまえ」

「おっと。忘れてたよ!」

嘘つけ。嘆息と共に吐き出された言葉を無視して、真麻ははい、と赤い専用のボールを取り出す。
こつん。シャンデラ―ノエルは頭をぶつけて赤い光を発生させる。それに吸い込まれていった。
いい子。自分で戻るノエルに満足して、ボール越しに褒めた。それをしまってとことこと歩き出す。
次第に町の中に入り、大きなポケモンセンターの前に立つ。中に入れば涼しい風と共に笑顔の女性が迎えてくれた。

「ようこそ、ポケモンセンターへ!」


「オウカちゃん、リユキちゃん、ライルちゃん、キリカちゃん、ノエルちゃん、クシロちゃん」

ジョーイから返してもらったモンスターボールを確認して、風呂上がりの少女は枕元に置く。名前を呼んでも一切反応のないのに膨れた少女は、ペシペシと1つを叩く。それでも反応はない。さらに膨れてもういいもーん!と喚いた。
そこでようやく1つが反応する。赤い光から出てきたのはタキシードの男。タイを締め直して、左右非対称の髪から覗く鋭い目線を和らげて主を宥めた。

「起こらないで下さい、もう夜でしょう」

「夜から本番だから!!」

「俺は鳥目ですから夜は寝るものですよ」

「そりゃキリちゃんはムクホークだから仕方ない。寝なさい」

「それはこちらのセリフです」

ベッドに転がしてシーツをかけて。優しく頭を撫でられて、元々あやされると眠くなるタイプの真麻はすやぁとすぐに寝てしまう。
寝付きの良い主にクスリと笑ってキリカは部屋の電気を消して、ボールへと戻る。
部屋は真麻の寝息と時折揺れるボールの音のみになった。










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