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何事も始めの一歩が大事なのだ。その始めの一歩で決まるのだ。
だがこれは無理だ。

「お日様の下とかムリィ…」

さっきの雨は嘘のようでピカッと晴れた。直射日光で殺される。
木陰から一歩も出られず行き詰まった真麻は半泣きで嫌だ、と呟いた。これが一応リーグ制覇した人間とは思えない。
自分でも思えない。
ほれ行くぞ。背中を押されて嫌々と首を振りながらも一歩、前に出る。燦々と強烈な太陽の光が降り注ぎ、上からジリジリと焼かれる。照り返しに目も焼かれた。
そう思ったのは真麻だけで、実際はただ光の中を歩き出しただけだ。夏の日射しが多少強いだけ。
ううう、唸って自分にしがみついてくる真麻にリユキは眉を潜め、自分で歩くように言い聞かせる。それに少女は首を振り、今度はオウカにしがみつく。オウカはちらと見ただけで何の反応も示さずただ歩く。
暑い死ぬ。小さな声にライルは眉を下げた。

「もう少しですから」

「うー…」

薄目を開けて見た先には目的のスーパー。あと少し、どうにか自分に言い聞かせて歩を進める。
ようやく入ったその二重扉の前で、突然鳴り響く電子音。ビクリと肩を跳ねさせた少女は、それが自分の携帯から鳴っていることに気付いた。恐る恐る会話ボタンを押して耳に当てる。
小さな端末からはがさついた声。機械越しの声は苦手だ。しかも電話の内容は自分を鬱々とさせるものだった。
ちょっと寄ってくれないか。頼むようで、自分からすれば命令のようなものだ。拒否権がない。結局は小金稼ぎに使い走り、やらざるを得ないのだ。
漏れ聞こえた声に耳の良いリユキは途端眉間の皺を深くする。

「…はい、わかりました」

すぐ向かいます。そう締め括って通話を切った。はあ、溜め息が溢れる。
また光の中に逆戻りだ。


本当は行きたくない。でも行かなきゃいけなくて、仕方なく支度をする。
携帯食料を腰のバッグに詰めて。もちろんポケモン達の食事もだ。しばらくの長旅に耐えられる装備をする。2人もボールに戻して。しっかりとしまう。
なくしてしまわないように。
それから本来の姿に戻ったリユキに跨がって、たてがみをかき混ぜる。

「リユキちゃん、急ぎだからごめんね」

ぱしん。尻尾で腕を叩かれて少し痛い。不機嫌は治っていないようだ。

(…あ)

そう言えばレントラーはどのくらいの重さまでなら大丈夫なのだろう。人間1人なら大丈夫だろうか。
とりあえず様子を窺えば重さを気にするような素振りはなく。まあ、大丈夫か、と片付ける。
では出発だ。

「じゃあマサラまでGO!」

掛け声と共に走り出す。
柵も垣根も駆け抜けて、近道を通る。これでマサラまで半日かからない、夕方までには着く。人間が耐えられる速度で走ってくれるリユキの頭を撫でて、黒髪を風に踊らせた。さっきまでとは打って変わって子供のように無邪気に声を上げる。
そうして着いた寂れた田舎町。あるのは家が数軒、1番大きな建物は研究所。
真麻を呼び付けた博士のいるところだ。
…まあ話を聞けばちょっとした資料を届けて欲しいだけ、と。内容はかなり貴重な研究資料なため、腕の立つ人でなくてはいけないらしく。絶賛引きこもりの真麻に白羽の矢が立った訳だ。
納得がいかない、なぜ自分でなくてはならないのか…。どんより、心は暗く重く苦しい。
一晩の宿を借りて、暖かなベッドに入る。だがすぐに寝れるはずもなく。明日自分が向かう『ホウエン』と言う場所を地図で確かめる。
パラパラパラ。ページをめくる音に反応したのか、狭い部屋にボールからリユキが出てくる。冷たい鼻先を押し付けてきて、早く寝ろとグイグイ押した。

「待ってね。ホウエン久しぶりだから確認しないと…」

パラパラ。地図をめくって。ようやく見つけた暖かな大地を懐かしそうに眺める。
何年前だったか。もうしばらく行っていない。
夏の日射しは溶けそうなくらい熱かった。死んでしまいたくなるくらいに。


「…船でカイナまで行って…そこから徒歩かな」

朧気な記憶を呼び起こしてルートを確認する。指先でなぞる地名、だがそれも段々ふらつくようになる。
眠い。前日の夜更かしはキツイ。
ああダメだ、眠い。
地図を放り出してベッドに頭を乗せた僕に顔を寄せる。
温かい。

「うむむ…リユキちゃんおやすみ〜」

ふわふわとした頭のまま転がったらストンと寝た。あまりの早さにリユキも呆れ返る。
まだ暑い夏の夜、開けた窓から夜風が入った。









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