引きこもりとケーキ


「なんだその格好」

「んあ?」

ソファの背に脚を掛けて座面に背を乗せ、長い髪を床に垂らしたサクヤが、弄っていた手元の端末から視線を上げた。上げたところで世界は逆さま、呆れた顔で自らの主がこちらを見ている。

「お、滅多に来ない奴が来たなぁ」

「なんで意地悪言うかな?せっかく焼いたケーキ持ってきたんだけどなぁ」

手に持つ小さな箱を僅かに揺らして真麻は小首を傾げる。それにサクヤは目を輝かせて脚をバタつかせた。

「あーウソウソ、ケーキくれ」

「なんでうちの草タイプは甘い物好きなんだろうね。君達って動物性油脂はダメじゃなかったっけ?」

「お前が甘党だからだろ。手持ちはトレーナーに似るって言うしな」

バタバタと機嫌良く脚を動かしてサクヤは箱を手招く。箱の持ち主を無視するその動きに真麻の目がどんどん細められていくが、結局皿を出してそこに一切れ乗せてやった。
歓声を上げてサクヤが片腕で体を支え、逆立ちの要領でソファから起き上がる。ブレずに綺麗に靴裏を床に付け嬉しそうにテーブルに着いた。真麻が真似をしようにもそもそも体が持ち上がらないだろう動きに、相変わらずポケモンの身体能力は化け物だと引きながらフォークを手渡せば、礼もそこそこにケーキに突き刺した。
そのまま手元も見ずに口に運ぶ。

「うんま!」

「はいどうもー」

数口でなくなるくらいの大きさのためフォークに突き刺さった逆さまのケーキ片手に、満面の笑みで口を動かすサクヤは幼く見え、真麻は頬杖を付きながら笑ってしまう。

「何笑ってんだよ」

「サクヤちゃん、ほっぺにクリーム付いてるよ」

「マジか」

指で拭って口に運ぶ動きすら幼い。確か同い年では、と真麻が記憶を探っている間にサクヤはぺろりと食べ終え、小さく手を合わせている。

「ごっそーさん」

「おそまつさまー」

「で、何しに来たんだよ」

「え、ケーキを届けに…?」

「ほんとにそれだけなのか」

ちら、と真麻の腰元にあるポーチに目をやる。ポーチ内の気配を探ればリユキの気配があったので再び真麻に視線を戻す。
珍しく護衛で共に来たはずの手元がボールから出てきていない。

「オウカは?」

「実はこの前外の寒さにやられまして…」

「え、冬眠?」

「わかんない。でもまだ起きてこない」

カリ、爪先がテーブルを削る。少しばかり機嫌の悪くなった真麻に八つ当たりされてはとサクヤが誤魔化すように首を傾けた。
通りで一緒に来たリユキがボールから出てこない訳だ、下手すると真麻に強めに当たられる。


「今日はオレ以外いないぜ」

「…どしたの」

「冬だからオレは外出ないし、他は各自仕事。ナイトはカントーの実家」

「あらそう…」

基本カントー地方を拠点にしているが、冬はわざわざ雪国に引きこもりに戻る真麻に合わせて移動することもあるため、シンオウ地方にも2軍の拠点はある。カントー地方よりこじんまりとした家だが6体の私室と集まって食事のできるリビングがあれば問題ない。特に今季はバラけてしまっているので、シンオウ地方の外の気温に萎えて常駐しているサクヤ以外は、いるとしても1体、2体だ。
そんな訳で本日はタイミング悪くサクヤ1人である。パチリと瞬いた真麻が手元の箱に視線を落とした。

「…ケーキどうしよう」

「帰ってきた奴には食べさせて、残りはオレが食べる」

「だから動物性油脂…お腹壊すよ?」

「へーきへーき」

ヒラヒラ手を振るサクヤを半眼で見やって、ため息を吐きつつ真麻も一切れつつき始める。思考をズラすことに成功したサクヤは思い出されると困るためそのまま適当に話し始めるのだった。








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