無意識と無知


ふわりと白色の湯気が上がる。
温めたこれまた白い液体を口にしながら、リユキは目の前で繰り広げられている光景を眺めた。
季節は冬になり毎日大雪が降って、気温もマイナスになるばかりになったこの冷たい大地で、1人と1匹は互いに熱を分け合うかのように寄り添い合う。
寄り添うどころかぴったりと密着していて、冷気に思考を鈍らされたオウカが真麻に擦り寄り、それを許した真麻が背をパートナーに預ける。真麻の温かい体を抱えて片手が暖を求めて不埒に皮膚の上を撫でても、同じように真麻の唇がオウカの頬を滑った。
すりすりと肌を触れ合わせるそれは犬猫が暖を取り合う動きで、しかし見た目がものすごく悪い。大男が小柄ながら発育の良い少女を抱えてそんな動きをしているのは、それがベッドの中でされていれば一発で勘違いされそうであった。
互いにその動きに意味はなく、あったとしてもじゃれ合う程度のもの。寒くて眠いオウカは現状を認識できておらず、真麻に関しては多分考えてすらいない。パートナーが擦り寄ってきたから、ただ許してそこにあるだけだ。
口にするミルクはただ温めただけのものだが、喉を降りていくそれは甘く感じる。ぐぐぐ、眉の寄った顔でリユキがちまちまと嚥下していると、するりとオウカの手が動いた。
普段は触れるのを躊躇って厚手の革手袋などをしているが、温い熱に触れる誘惑に耐えきれられなかったのか素手が真白い脚を滑っていく。柔らかな太もも、出っ張った膝、その裏に手を差し入れふくらはぎを撫でていった。辿り着いたかかとをするりと撫で上げ、折り返して脛を指先が伝う。
そのまま脛とふくらはぎに手を這わせる大きな手に真麻の瞳が眠たげに細められた。ひやりとした冷たい手がちょうどよく眠気を溶かしているのだろう、僅かに抗議を含んだ視線を自らを抱えるパートナーに向けるが、首を傾けて硬い緑の髪に口付ける。
ふにゃりと体から力が抜けて完全に身を預けた。
自分の熱の移ったオウカの手は心地よく、撫でる動きが眠気を掻き立てる。普段から敷布団か大きなソファかとの扱いをしているので、パートナーの上で寝てしまうことに慣れてしまっている。真麻はそろっと空いている方の手に己の手を絡ませて、相手の首筋に頭を埋めるようにして目を閉じた。
既に空になったカップを意味もなく口許にくっつけながら、リユキが数秒数える間にすうと深く動いた胸に本気の眠りを悟ってオウカに目を向ける。こちらも先程の真麻と同じく眠そうな瞳を何やら主人に向けていたが、脚を撫でていた手を真麻の腹に回し、小さな頭に自分の頭を乗せるように傾け目を閉じた。
ソファに預けていた背がさらに沈む。ギィ、と小さく抗議の声を上げたソファはすぐに沈黙し、あとは2人分の安らかな寝息が聞こえるだけとなった。
しかしリユキの高性能な耳が小さな空気の振動を捕らえる。それはリユキがずっと眺めていた主従の向こう側、リビングの入り口からしていた。ふるふると震えるオレンジの髪にリユキはそっと人差し指を立てる。
叫ぶな、と無言で伝えた。
パクパクパク、叫びたいのを必死に堪えた口元の動きにリユキは深く頷く。相手の言いたいことは重々承知している。
白昼堂々と何をやっているのかとか、その手の動きに気が付かないのかとか、ここはお前達どちらかの私室ではなく共用スペースたるリビングだぞとか。
そして買い物から帰ってきたらこんなものを見せつけられるライルの身にもなれとか。
あと早く結婚しろ。話はそれからだ。








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