23


近場の整地が完了するくらい草を刈りまくった結果、大きめのベッドが2つ出来上がった。大体何でも入っている真麻のポーチから引っ張り出したシーツを被せて、端を楔で地面に留める。そこに真麻は勢い良くダイブしてばふりと沈んで跳ね返り、きゃらきゃらと声を上げた。
同じく隣のベッドにリユキが転がり耐久度を調べる。少し尖ったような感触はあるものの被せたシーツが軽減してくれているし、冷たい洞窟内でも体が地面に接触していないだけマシだろうと頷いた。
外は既に暗闇に染まっていて、耳をすませば川のせせらぎと近くを通るポケモン達の足音が聞こえる。他の人間らしい足音がないことを確かめると、リユキはごろごろと転がっている真麻を担ぎ上げ、入り口近くに設置された火の側へ座らせた。
待ってましたとばかりに目の前に湯気の立つ器が置かれる。

「それ食べたら寝ていいですよ」

「それじゃすごく私が眠いみたいじゃん」

「眠いでしょ、あれだけ騒げば」

それぞれが仕事をしている間に真麻は手持ちと一緒に草を刈ってみたり、川辺に近寄って水を撒いてみたり。とにかく落ち着かずにあっちへうろうろ、こっちへうろうろと1人で騒いでいたのだ。ちょっと遠くに行こうものならリユキが首根っこを引っ掴んで穴へと放り込むが、飽きもせず穴から這い出てまたうろちょろと動き回る。
オウカとリユキの眉間にくっきりと縦線が刻まれる頃にようやく山と積まれた草束からベッドの整形に入ると、今度はそんなことが楽しいのか再びわーきゃー騒いでいた。
そうして冒頭に至る。

「ほら、さっさと食って寝ろ」

「うぃー、たーべーまーすー!」

一緒に渡された匙を器に突っ込んで、熱いからか気持ち少なめに口へと運んだ。
そしてすぐににやーっと唇が弧を描く。

「おーいーしーいー!」

口にしたのは日保ちさせるために乾燥させた野菜と肉を煮込んだスープ擬きで、上の方には固い薄切りのパンが乗せられているだけのものだ。それでも少し濃いめに味付けされたスープに、水分を吸って柔らかくなったパンが、動いてすっかり空っぽになった胃袋を大いに満足させたようだった。
食事に興味が移り静かになった真麻の周りで手持ち達が順々に手元の器に口を付ける。一口食べてすぐさま食料の入った小袋を漁ったライルが引っ張り出したのは、塊のままのチーズ。指先にスラリと10cmほどに作った、薄刃の氷をナイフ代わりにチーズを薄く切り、まだ温かい器の中に放り込んだ。そして両隣の器に同じく放り込む。

「ありがと」

「ん」

「あれだなー、野宿してて1番困るのはカロリーが足りないことだよなー」

礼を言ったキリカに頷き、ライムは器にさらに追加する。熱が伝わってとろりと溶けたチーズを混ぜながらリユキはぼやいた。
もぐもぐ口を動かしながら真麻もライムに器を差し出す。

「ライルちゃん私にもくだぁい」

「はいどうぞ」

「ありぁとー」

「飲み込んでからにしろよ」

「んー」

器にスープを追加しながら真麻は生返事を返す。少し動きの緩慢になったその隣で、ちまちまと匙を口に運びながらチーズを刻むライルを困ったように見るのはオウカだ。視線に気付いたキリカが拳ほどのパンの塊を手に取る。

「オウカはパン食べる?」

「あー、俺達が足りてないんだからオウカも足りないよな。食え食え」

「…助かる」

オウカは眉の下がったまま、手渡された保存用ではないまだ柔らかなパンに囓り付く。それを横目に眠気のやってきた真麻が半眼で頭の中で買い込んだ食料を思い浮かべて、首を傾げた。

「…ご飯足りなくない?」

「次の町まであとどれくらいだ?」

「うーん、地図だとあと1晩か2晩はどこかで野宿だねー」

「感覚だと?」

「もう1晩追加かなー」

「…まあ3日ならどうにかなるな」

指折り数えたリユキは日保ちする食材と保存食を確認する。突発的な旅は慣れたもので、災害用の缶やパックの保存食もトレーナーバッグに完備していた。もちろんポケモンフーズも多めに用意してある。
ハグハグと匙を囓りながら真麻は指先を宙に滑らせた。

「もうちょっと直線コースなら早めに行けるよ。ただ鋪装されたとこじゃなくて森と川の中を突っ切ることになるけど」

「獣道はちょっとなー。なんのために鋪装された道があると思ってんだ。それに野宿するトレーナーを想定して作ってんだから、水場から離れるのは困る」

川を断たないように掛けられた橋や意図的に作られた小さな溜め池。自然や野生のポケモンに配慮するだけでなく、通るトレーナーが困らないようにそこここに水場があった。また道なき道を通るのは過去に何度もあったことでできない訳ではないが、かなり急ぎでなければ取りたい策ではない。

「食いもんに関してはまあどうにかなる。俺としてはなるべく安全にいきたい」

「その心は」

「下手なことしてトラブル増やしたくない。トラブルの権化みたいなお前とどんだけいると思ってるんだ」

「正直じゃのー」

最後の一口を飲み込んで真麻は器を置いた。眠そうに唇を舐める姿にライルが頷く。

「わざわざトラブル増やすのはやだから、このままのんびり行きましょ。あとマスター眠いから多分もうちゃんと話せるかわかんないし」

「しつれいな」

「ちょっと舌ったらずになってますよ。私が洗い物するから、キリカ、寝かせてきて」

「了解」

キリカにとんとん、と背中を叩かれ、真麻は素直に立ち上がる。眠気に負けてふらつく体を支えられながら奥へと歩いていった。
それをリユキは目だけで追ったあと、結局眉が下がったままのオウカに首を振る。

「いい、食っていいから。元々真麻は時間通りに食べないし量もまちまちだから、あいつの食う分の食料は足りる。断言できる。
ただ同じペースで俺達があいつと同じものを食べると足りない。フーズもあるし取り混ぜながら食えばまあ、多分足りる」

「でもマスター、1人で食べるの嫌がるじゃない?」

「そこは無理にでも食わさないとなー。知らない場所でもみんなで同じものを食べるって心理的な負担の軽減にいいんだけどな、そこはしょうがない。口開けさせて放り込めば食べるだろ」

「ってことで、オウカ食べちゃっていいからね」

「…ん」

咀嚼途中のパンを咥えたまま、オウカは小さく頷いた。








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