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ふわふわとしていた目的地がはっきりとしたので、数日かけてしこたま買い込んだ荷物をバックに詰める。何を入れても形の変わらない小さなバックに詰めに詰め、結局残ってしまったポフィンもタッパーに入れてしまい込んだ。
これは道中のおやつにしてしまおう。何せ目的地まで何度か野宿するのがわかりきっている。甘いものはエネルギーの元だ。

「と言う訳で、出発しまーす!」

「おー」

意気揚々と片手を挙げて歩き出す真麻にリユキはついて行く。いつの間にやら持っていた細い枝をご機嫌に振って、のこのこと歩くことしばし。フエンタウンの行きは大変だが帰りは簡単で、少しばかり高い段差をリズム良く降りてあっという間にキンセツシティに着いた。普段であれば寄り道をするが珍しく素通りし、海岸へと足を進める。
水場はライルに頼んで空気玉を作ってもらい水の上を歩く。うっすらと水と足裏を隔てるベールは、足を踏み出せばほよんほよんと形を変えて破れることはない。楽しくて水上をうろつくと後ろからリユキに小突かれた。
地面に足が付いても自然豊かな場所に寄り道を繰り返し、見つけた木の実をちょいちょいバックにしまって、背の高い草原に歩を進めようとしたところで後ろから襟を引っ張られた。
容赦なく首が絞まる。

「ちょっと待て」

「首首首首!!」

「じゃあ離すから止まってろよ」

引っ掛けられた指が離れると塞がっていた気道に空気が通る。軽く咳き込んで真麻は抗議の視線を向けた。

「リユキちゃん!首絞まった!」

「あー悪い悪い。でも呑気に突っ込もうとするのをやめろ」

「ん?」

「お前の背丈じゃこの中入ったら見えなくなるだろ。何出てくるかわからないから虫除けスプレーしろ、あとはぐれるから引っ付いてろ」

差し出された腕とリユキの顔を視線が往復して、真麻は嬉しそうに腕を絡ませた。ふにゅう、触れた柔らかなものにリユキはこれがオウカであったなら硬直するだろうと若干遠い目になる。
リユキにとってはどれだけ柔らかで立派なそれでも牛の乳に興奮しないのと変わりはしない。しかし隣でバックを漁っている真麻一筋10年を記録したオウカにとっては地獄のような状況だろう。それをわかっていない己の主は無邪気に張り付く。
もしかして自分がこの態度だから世のポケモンも大体同じだと思っているのか。少しばかり頭の中身に不安になる。
あれこれ考えている内に虫除けスプレーを撒き終わった真麻が袖を引く。リユキの注意が自分に移ったのが嬉しかったのか、ちょいともう一度引いた。

「終わったよ」

「…おー、じゃあ行くか」

「うん」

さわりと草原を掻き分けて1歩を踏み出す。頬を撫でるすらりとした葉は、走って通った際に触れたらスッパリと切れてしまいそうだ。少し不安になって真麻はリユキに身を寄せた。
さわさわさわ。風が通り抜けて草原を揺らす。トレーナーらしい人影を避けて草原を抜けた先には自然を壊さないように舗装された道と簡易な階段、丸太を組み合わせた橋。しばらくは山を登ったり下ったりの繰り返しだ。
真麻に地図を借りて水場を探す。まだ日は高いため、今日は進めるだけ進んで水場の近くで休むとしよう。
リユキの提案に真麻はコクリと頷いた。

「この周辺は草の塊とか小さな洞窟とか、中に住めるようなスペースがあるよ。ホウエンだとそこをカスタマイズして秘密基地にするのが流行り」

「ほー。じゃあ空いてるとこを借りて一晩の宿にするか」

「その方が楽だと思う」

「人様がいないところが余ってればいいけどな」

「どうだろか…。中の広さとか使いやすさとかにも人気があるから、狭くて使いづらいとこは余ってるかも」

「こっちは狭かろうが使いづらかろうが、一晩寝るだけならなんでもいいからな」

階段を登って橋を渡り、また登って下る。
高低差が大きいのとなるたけ自然を壊さないようにとの配慮で左右にジグザグと進んで行くため、歩いた量に対して意外と進まない。川や小さな貯め池を視界から外さないように進み日も傾いてきたかと言った頃、あっと真麻から声が上がった。
パタタと走って草の塊にダイブする。上半身だけ先に中に消えて、バタバタと脚を動かして徐々に全身が中に消えていった。
これが噂の、とリユキも草の塊を掻き分けて中に入る。

「…すげぇな」

草の塊は身の丈ほどの高さで奥行きは余りないように見えたが、奥は洞窟とも言い難い浅い穴に繋がっていたようで、最初のふわふわとした感触の草の絨毯から冷たい土と岩の床へと変わっている。
先客はいなかったようで、何も弄られていない崩れそうな壁とそれをつついている真麻を見つけた。

「やめとけ、巻き込まれたら助けられないぞ」

「むうー、つまんなーい!」

「…少し早いが今日はここに泊まるか。ほら寝る場所どうにかするぞ」

「あ、じゃああれ使おうよ」

「あれ?」

真麻が指し示した部屋の隅には草を山にしてベットにしたような塊が置いてある。近付いて触るがカラカラに乾燥しており、これが作られてからかなり時間が経っているようだった。
なるほど、考えることは同じのようだ。ここを宿にした人間が他にもいたらしい。
真麻もボスボスと感触を確かめて気に入ったらしく、体を預けてご満悦だ。髪やら服やらに絡まっても楽しそうにごろごろしている。
リユキは空気の流れも問題なく火を使っても大丈夫そうだと判断し、トレーナー放置で手持ち達の会議を始める。

「ここを出てすぐに川がある、舗装路から大して離れていない、換気も出来てて火を使っても酸欠にならない。一晩寝るだけなら好物件だろ?」

「これカッサカサだけど、外の草刈って被せれば柔らかいし大丈夫だと思う。あと出入口が1つだけって防衛的にすごく楽」

「主人も見張りやすいし」

「ちょっと待って、私今聞き捨てならないこと聞いた気がする」

「目を離すとうろちょろするのをやめろ」

「水汲んでご飯組と、ここの改造組に分かれればいいかな?」

「じゃあオウカと私でご飯作って、リユキとキリカでマスターの相手と寝床どうにかして、クシロとノエルで外の警戒でいいんじゃない?」

「えっボクも参加するの?」

「働け」

「それとも草刈りする?」

「えー…じゃあ周辺見てくる…」

「お願い君達のマスターの相手もして」

「じゃあ解散。俺肉食いたい」

「私もー。干し肉あったから入れよう」

「主人はポフィンの残りでも食べて待ってて下さい」

「戦力外通告しんどいでござる」

不機嫌そうにぷくりと膨らんだ頬をつついて、リユキが勝手に取り出したタッパーからポフィンを口元に押し付ける。素直に口を開いた真麻にそのまま渡し、せっせと刈った草を積み上げる。
真麻はそれをもくもくと咀嚼しながら眺めるのだった。








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