ガラス玉越しの熱


この国の王は恐ろしい。
そう草木の陰で呟いた誰かが深い溜め息を吐いた。
緑豊かな森の国、この国の王は年若くまだ16の娘だ。少しばかり引きこもりがちではあるが遊んでばかりいるようなことはせず、国を愛してきちんと仕事をする美しい自慢の姫だ。
ある1点の欠点を除いては。

この国に様々な目の色の女はいれど、赤い瞳の女はいない。全て国から追放、もしくは逃亡して、残りは殺された。
姫の妹君が赤い瞳の娘で、まだ幼い時分に国を治める姉といさかいを起こして国を出ていった。その時に姉の片目を傷付けたため、姫は赤目の女が憎くて憎くて堪らないらしい。
国に入る者の内、赤い瞳の女だけは入ることは出来ない。それどころか、姫に見つかれば即刻首を跳ねられてしまう。女を庇った者も全て同罪として殺されていた。
そして現在は。

「欠点、だって。ねぇ、どう思う?」

妹に潰された見えぬ目の代わりに、森と同じ美しいエメラルドのガラス玉を嵌めた黒髪の姫は、音も立てずに自らの部屋へと足を踏み入れた下僕を振り返る。
問われた長身の青年はいつも通り眉根を寄せた顔のまま、ボソリと答えた。

「…欠点など、ありませんが」

「うふふ、オウカちゃんは優しいよねぇ、まあそこが好きなんだけど」

広いベッドに力なく体を横たえる彼女の瞳は紫と緑。本来、両の目にあったのは暗いアメジストだった。
オウカは幼い頃から彼女の瞳がとても好きであったのだが、彼女は自身の赤の混じる瞳を好いていない。普段は義眼と同じく緑のコンタクトを付けていた。
現在彼女の紫を見ることが出来るのは極一部のみ、その中でもオウカは一等特別な立場にいる。

「オウカちゃん」

「はい」

こちらに伸ばされる主の手を取り、すべらかな肌に口付ける。その手がオウカの頬を撫で、緩慢な動きでベッドの上へと手招く。

「もっと近くに」

「はい」

真白のベッドに膝を乗せればシーツが拠れギシリと鳴る。覆い被さるようにして寝転がる彼女を見降ろせば、彼女の両目がとろりと溶けた。

「ん…綺麗な緑、若葉の色…」

主の恍惚とした声。
森の国で1番多いなんの変鉄もない黄緑の瞳。その中でオウカの瞳を異様に気に入っている彼女は、ことあるごとにその瞳を覗いていた。ついでに覗く度に欲しい、と言うので一度渡そうかとすれば、なぜだか止められてからはこのように彼女の部屋で気の済むまで好きにさせている。
ゆるゆると目の縁を細い指先が撫でて、目尻に爪を立てる。眼球を抉り取ろうとするような仕草をするものの、そのまま何もせずまた縁を撫でた。
それを何度か繰り返して指先が唇に移動する。ふにふにと触れる指先を舐めれば、驚いたように離れ、今度は恐る恐る確かめるように触れる。

「…やわっかい」

「まあ、生き物ですので」

「そうねぇ、確かに」

貴女の方が余程柔らかいだろう、とオウカは心の中のみで呟く。蕩けた瞳のまま甘えたように首に腕を絡ませてきた主に、オウカは逆らわずにそのまま身を沈ませた。








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