20
ちょうどポフィンが焼き上がる頃。
ガヤガヤと騒がしくなった廊下、聞き慣れた声に顔を上げた真麻は、扉を開けて入ってきた手持ち達に声をかけた。
「おかえり〜!」
「あ、マスター起きてる」
「しかもこの甘い匂いは」
「ポフィンだ〜!」
歓声を上げるライルに皿いっぱいのポフィンを見せて笑う。その数に顔をひきつらせたリユキがオウカに視線をやれば、彼は小さく首を振る。荷物を冷蔵庫に詰めるキリカに持つ袋を全て渡し、リユキは真麻の頭をひっぱたいた。
良い音がする。
「いっったぁ〜!!」
「おい、いつも計量しろって言ってるだろ。なんだこの数は」
「美味しいよ、った!!」
「オウカも止めろよ」
「2回も叩いた!ったい!!」
「止める暇がなかった。あとリユキ、これ以上は馬鹿になるからやめてくれ」
「オウカちゃんの裏切り者!!」
涙目で頭を押さえる真麻の頭を撫でて、ライルはリユキを睨む。かなり手加減しているとは言えポケモンと人だ、万が一があったら大変だろうと視線で訴える。
最悪首が折れる。
「まあとりあえず、お茶にしようか」
キリカの言葉に真麻の瞳が輝く。またこいつは甘い、とリユキの瞳が鋭くなるが、オウカに囁かれてそちらに視線がいく。
「…あ?」
「多分シンオウに行く。主人がミナモシティから別の地方へ行く、と」
「…シンオウな」
あそこは嫌がってなかったか。リユキが問えばオウカは僅かに首を縦に振る。
なんのためにカントーに引き込もっていたか。それを知っているだけにリユキは首を傾げる。
「なんでだ」
「…他がシンオウよりトラウマだから」
「…あー…」
イッシュにカロス。それらはそれらで主の心を抉ったことは記憶に新しい。
旅自体は楽しかったようだが。
「リユキちゃん〜!クリームいる?」
「…俺はいらない」
「…俺は欲しいです」
「オウカちゃんはクリーム食べるって!」
「あいつ動物脂肪取り過ぎると体調崩しますけど大丈夫です?」
「ちょっとならへーきへーき」
嬉しそうな真麻の声。ちょこんとポフィンに飾られたクリームを楽しそうに絞り出している。
まあ何はともあれ。
「…俺らが護れば問題ないか」
こくり。頷いたオウカに頷き返して、手招く真麻に近付く。紅茶淹れた!と楽しそうに言う彼女の頭を優しく撫でた。
▲