2


からんころん。
部屋に軽やかな音が響く。
ディオスが小さな湯呑みの中に2つのさいころを投げ入れる。パタン、閉まったその中でからん、さいころが止まる。パンッ、打ち鳴らした手を広げて声を上げる。

「さあ!丁半選べ、張った張った!」

「俺は丁」

ころん、転がした飴玉をディオスが回収していく。ころころ、2つ転がしたレンはにこやかに頷く。

「俺も丁で」

「ナイトはどうする?締め切っちまうぜ?」

「うーん、じゃあ半で」

ころころからから。ナイトが5つ転がした飴玉をディオスは回収し、湯呑みを引き上げる。
覗いた2人は呻いた。

「半だな」

「また外した!」

「うむむ、今日はリーダーに負けっぱなしですね」

「ほらナイト、飴玉総取り」

「やったー!」

渡された飴玉は7つ。1つはディオスの懐に入った。
からからから。
さいころを振るディオスは片眉を上げて皆を見回す。すぐに辞退した2人に、ナイトは脇に積まれた飴玉を転がした。
笑顔だ。

「今日はナイトの勝ちー」

「相も変わらず強いですねぇ」

「クッソ、明日は勝つからな!」

数えるほどしかない飴玉を1つ、口に放り込んだサクヤに、うみゅーとナイトは頷いた。
脇に小山となっている飴玉を見て、まあまあかな、とレンは頷く。ナイトと比べればそれはとても小さなものだったが。
がらり。襖が開いてクサビが顔を覗かせる。転がる飴玉を見て、ああ遅れてしまいましたと苦笑する。

「今日は…リーダーですか」

「いーっぱい!」

「それは重畳」

ナイトから手渡された飴玉をしまいながら、クサビはカタン、手に持つ銀の刃を畳に置く。それにディオスは目を剥いて、手に取りしげしげと観察した。
もう1枚をつまんで、レンは目を細めた。

「銀の翼。羽根の生え替わりですか?」

「ええ」

「綺麗だ、状態もいい。…いくらだ?」

「いくらでしょう?」

小首を傾げて、クサビは笑う。ふむ、ディオスが懐から出した紙袋。ずっしりとした様子から、金が入っているのがわかる。

「10万」

「では交渉といきましょう」

クサビが腰の袋からもう1枚、追加で羽根を取り出す。光を反射するその銀の羽根に、ディオスは唸った。
一方、触りたがるナイトにレンは気を付けるように言って渡した。
恐る恐る持ったナイトは、その軽い羽根とクサビを見比べ、納得したように頷く。

「これ、クサビちゃんの羽根なんだね」

「エアームドの羽根は生え変わる。その羽根は軽くて切れ味も良いので、ちょっと加工して売る訳です」

「愛好家もいるみたいだしな」

ふーん。
ナイトはしげしげと見て、はい、クサビに返す。
合計3枚、クサビは片手を広げた。

「これで」

「高い。もう少し下げろ」

「状態の良い物を選んで、貴方に【最初に】持ってきました。他にも伝はありますよ?」

「ぐぬぬ」

唸るディオスにクサビはつんと澄ます。にやにや、闇商人の顔になったディオスを見てにやつくサクヤとレンに、ナイトはぱちくりと瞬いた。
ねえ、レンの裾を引く。

「ディオッちゃんはなんで悩んでるの?」

「俺をそう呼ぶなっつったろ。それはあのバカだけだ」

「真麻にバカっつったらキレるぞ」

「知るか」

ナイトを膝に乗せながらそうですねぇ、レンは首を傾げる。ぽんぽん、腹を撫でて頭に顎を乗せる。

「あれを売るには、クサビさんから買わなくてはいけないんです」

「クサビちゃんくれないの?」

「タダではダメですね。何事も商売ですから。二軍の資金は全員の稼いだお金で賄われているので」

うーん、悩んだレンは飴玉を1つ、手に取る。

「この飴玉を売るにはまず、仕入れなくてはいけません」

「ぎょうしゃさんから買うんだよね?わかるよ!」

「1つ100円で売りたいのに、業者さんは1つ120円です、と言います。リーダーはどうしますか?」

「すごく困る!あかじになっちゃうんだよね、パパが言ってた!」

「そうです。その状態が今のディオスさんです。
黒字にするには1つ140円で売らなくてはいけません。でも高いと誰も買ってくれません。だからクサビさんに値切ってる訳です」

そっかぁ、ナイトは悩むディオスを見つめる。からんからん、転がすさいころを見つめながらじっと考えていた。
それをクサビがじっと見つめる。

「…40」

「50」

「41」

「50」

「…43」

「…ふむ。48」

「…じゃあ45だ」

「…。まあ良いでしょう。じゃあ45で」

数字の掛け合い、それを締めたクサビは放られた紙袋の中身を確認して羽根を畳の上で滑らす。受け取ったディオスは舌打ち、悪態を吐く。

「この商売上手め」

「今さら何を。では私はこれで」

クサビは立ち上がる。襖を開けて、ふとナイトを振り返った。

「風呂に行きますが…リーダーも入りますか?」

「うー!一緒に入る!」

ふわっ、浮き上がったナイトはクサビに抱き付く。それを受け止めて、クサビは襖を閉めた。
残った3人は互いの顔を見やり、はあ、溜め息を吐いた。

「酷いですねぇ」

「あれいくらだと思う?」

「マスターが以前1枚千円だと言っていましたが」

「まあ当たりだ。元値はそれくらいだろう」

「あいつもたまには当たるのな」

「恐ろしい。3枚3千円を45万に跳ね上げましたね」

「もう買わん。何人か知り合いに高値で売り付ける」

「貴方も十分恐ろしいですよ」

レンの言葉にディオスは鼻を鳴らす。
からん。
さいころを転がして、ディオスは2人に見せる。

「ナイト抜きだ。やるか?」
「まあこの飴玉も、ナイトの父ちゃんからもらってるけどな」

「やります。もう少し増やして明日もやりたいので」

「俺は赤字だ、増やしたい」

「じゃあ続きだ」

かららん、振ったさいころを湯飲みに入れて振る。手を離して、声を張り上げた。

「丁半どっちだ、さあ選べ!」

「丁!」

「半!」

部屋の中に呻き声や笑い声が響く。その声に、隣の部屋からクスクス、笑い声が聞こえた。
アローラはみかんを剥きながらころん、ナイトが置いてった飴玉を転がす。

「なんとも楽しそうですこと。明日は私も交ぜてもらいましょう」

剥いたみかんを口に運んで、甘い、笑顔で呟いた。








------------------------------











×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -