18


窓の外をじっと眺めていたノエルは、ガチャンとノブが回って部屋の扉が開くと振り返る。半袖短パンの主の後ろから、ジャージやらシャツやら浴衣やらと好きな格好をした皆を見ておかえり、と小さな声で伝える。
ただいま。
真麻に頭を撫でられ自分の体は無意識に、ノエルの意思と関係なく、真麻から生気を吸い取る。
久方ぶりの主の生気。ふるりと体は震え、その素晴らしい生気を味わう。僅かな接触でこんなにも吸い取れるのだ、抱き付けばどれほど吸い取れるだろう?ゆっくりと手を主へと伸ばして、その手を叩き落とされる。
不満気に叩かれた手を擦りながら、ノエルは真麻の隣に立つリユキを睨み付けた。

「…なに?」

「吸い殺すつもりか、あ?真麻も真麻だ、早く手をどけろ」

「いや最近【ご飯】あげてなかったな、って思って」

「こいつはお前の知らないところで食べてるから気にするな。ほら、早く」

真麻はリユキに急かされ渋々とノエルの頭から手を離す。生気の供給がなくなり、ノエルは一層不機嫌になった。ふん、鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
真麻も真麻で名残惜しいのか、ちらちらっとノエルの頭を見ている。
紫、藍色、灰色、黒。角度によって色の違う不思議な髪色をしたノエルの髪をまだ触っていたいらしい。

「…ちょっとなら抱き付いても大丈夫じゃないかな」

「またお前は甘い」

「マスター、撫でるなら私をお願いします」

わきわき、指を動かす真麻が再びノエルに手を伸ばす前に、髪を下ろしたライルがすとんとベッドに座った。真面目な顔をして言うライルに呆れの視線をやり、リユキは顎をしゃくる。

「…ん」

よしよし。少し湿った髪は手の動きに合わせて揺れる。ぱあっと笑顔と共に背後に咲いた(ような気がする)花に、真麻も苦笑する。それを見たキリカが苦笑混じりにズルイなぁ、と言葉を漏らした。

「ねえマスター、俺には?」

「キリちゃんもよしよしー!」

鳶色の髪が揺れる。いつもは鋭い目付きがふわりと緩んだ。
楽しそうだなぁ、なんて呆れながらも感想を言うリユキの頭にも真麻の手が乗る。いつもは上げている前髪が下りて、ついでに湿気てボサボサの髪が大人しい。ふわふわだね、と真麻に視線をやり、されるがままになる。
一方服やタオルの片付けをしているオウカやクシロは一瞬視線をやるも、すぐに興味がなくなったようで視線が戻る。その後ろから真麻が頭を撫でて回った。
一通り手持ちを撫でて満足したのか、真麻はベッドにダイブした。すぐに毛布に潜ってしまう。

「おやすみ〜」

「おい、まだ日が暮れたばっかだぞ」

「眠い〜」

万年睡眠不足の真麻はすぐにすやすやと寝息を立て始めた。起こそうと毛布を掴んだリユキの手を止め、キリカが首を振る。

「寝かせてあげて」

「甘やかすなよ」

「いいじゃん、マスターどうせ起こしても起きないし」

ばたばたと足を動かすライルに、リユキは嫌そうにしかめた顔を向ける。それににぃーっといたずらっ子の笑みを浮かべたライルは、しかめ面のリユキにびしっと指を向ける。

「買い出し行こうよ!」

「はぁ?」

「多分マスター、夜中に起きるだろうから、夜食作ろうよ!」

「…食わしたら太るぞ?」

「普段の食事バランス考えたらマスターむしろどんどん食べないと痩せちゃうよ。だから簡単なの作ってさ」

キラキラと瞳を輝かすライルにリユキは思案する。何かしら理由を付けて外に出たいだけだろうから、切って捨ててもいいが…。

「…まあいいだろう」

「やった!」

嬉しそうにはしゃぐライルを横目にメモ帳を取り出し、サラサラと書いていく。

「何買いたい?」

「作るならスープ系の方がいいかなって思うから、お野菜とお肉買って…」

「俺も行きたいな。荷物持つよ」

「俺も行く。オウカは…」

「残る。主人は見ているから、気を付けて」

素っ気なく言うオウカに肩を竦めて、それぞれが準備する。これでもかと短いスカートに履き替えたライルが小さなカバンを持って、ぽんぽんと主の頭を撫でた。

「いってきます」

「なんかあったら電話しろ。あと真麻1人で部屋から出すなよ」

「わかってる」

小さく頷いたオウカにリユキも頷いて、シンオウ3人は出掛けて行った。
ポスンとベッドに腰掛けるノエルは下からオウカの顔を覗き込む。

「どうして行かなかったの?」

「…お前が何をするかわからないから」

「あっそ。別にボク、寝込みを襲うほど卑怯ではないよ」

「…そう願いたい」

そう答えたオウカはそれっきり喋らなくなった。つまらない、とノエルもボールに戻ってしまい部屋に静寂が訪れる。
一連の流れを見ていたクシロも自分の片付けが終わればすぐにボールに戻り、すうすうと真麻の寝息のみが聞こえる。
その眠るベッドに腰掛けて、オウカは本を開いた。
主オススメの小説。ポケモンを持たずに家を飛び出した少年の、ある野生ポケモンとのんびり旅をしながらポケモントレーナーになるお話。

「子供向けだと侮るなかれ、超面白いから読んでみ?」

ぽんと手渡してきた真麻はにっこり笑っていた。
読んでみると、主に似ているな、とオウカは思う。あの人はポケモンも持たずに自分に声だけをかけて、返事も待たずに勝手に歩き出す人だから。

「…、……」

真麻の寝言。口の中で呟かれたそれは聞こえない。
再びすうすうと寝息を立てた主と、ペラペラと本を捲る音だけが響いた。









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