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ふわ、上がる湯気。さっさと体を洗って真麻は露天風呂へと足を運ぶ。
風呂の中はポケモンだったり人型だったり思い思いの姿を取ったポケモン達が、それぞれの主と共にいた。中にはポケモンだけで風呂に入っている者もいる。
もちろん全員メスだけである。
男湯もこんな感じなのかな、と高い塀1枚隔てた向こうにある男湯を見やる。
ぽちゃん、手で触れた湯は少し熱めだった。ふむ、少し思案するが背後から来たライルに肩を叩かれた。
「マスター?どうしました?」
「お湯が少し熱いんだけど、ライルちゃん大丈夫?」
「長く浸からなければ大丈夫だと思います。さあ、湯冷めしてしまいますから、早く中に」
先に脚を湯の中に入れたライルに続いて、真麻も湯の中に入る。人工的に作られた岩に寄りかかって、真麻の頭の中ではかぽーんと鳴っていた。
温泉の匂いにライルを見やる。鼻が良く利くライルは大丈夫なようだが、彼女よりさらに鼻が利くリユキは大丈夫だろうかと心配になる。
ぐったりしていそう。
「あったかいですねー」
「あったかいねー。今日はこのあとご飯食べて少し早く寝ようか。山登り疲れたー」
「お疲れ様です。明日はどうしましょう?」
「少し買い物して、ダラダラ?」
真麻の答えにライルは呆れたように半眼だった。なんとも主らしい答えだ。
ぐいっと体を伸ばすライルをぼんやりと見る。白い肌はほんのりと赤く染まり、長いオレンジの髪は湯に付かないようにまとめられている。
…色っぽい。
「ライルちゃん色っぽいねー」
「…マスターもですよ」
「えー?」
ふにゃりと笑う彼女の肌も赤く染まり、黒い艶やかな髪はまとめられている。
温泉、と言うものに初めて入ったがとても良いものだ、とライルは思った。敬愛する主と一緒に入れるのはとても良い。
普段主の隣にいる、ここにいない2人にざまあみろ、と心の中で唱えておく。
「マスター、夕御飯はどうしますか?」
「食堂あったからそっちでご飯。明日からはキッチン付いてる部屋押さえたから、自分達で作ろっか」
「!じゃあ、マスターの作ったご飯食べたいです!」
にこにこと笑う主にここぞと甘える。真麻の口振りなら、しばらくフエンタウンに滞在するのだろう。
なら、1回くらいならいいだろう。
過保護のせいでしばらく手料理を食べていないことを思い出した。真麻は自分に甘いから良いよ、と言ってくれるだろう。目の前の主が頷けばリユキも反対できないはず。
案の定、良いよ、と真麻は頷いた。ついでによしよしと頭を撫でてくれた。
ライルの背後に花が咲く。
「何が食べたい?」
「マスターが作ってくれるものならなんでも!」
「あら〜、ライルちゃんいい子〜」
よしよしと追加で撫でて、湯立っちゃうから出よう、と真麻は立ち上がる。ふわりと冷たい風が心地好い。
はあい、素直に返事をしたライルと共に風呂を出た。
かぽーん。
リユキの頭の中で音が鳴る。初めて入った温泉は、あの火山の匂いと何か違った匂いが混ざって不可思議な匂いになって、鼻から入って頭を刺激する。
要は少々気分が悪い。
「…あー」
「…大丈夫?」
長い髪をまとめたキリカが、ぐったりとするリユキの背を擦る。お前は大丈夫か、の問いにはへにゃりと目尻を下げてキリカは頷く。
「俺は大丈夫。オウカ…も大丈夫だね」
「羨ましー、ガチつらいー」
「…先に出れば?」
「んだよ、俺だけ除け者か?」
ちらりと視線だけ寄越したオウカを軽く睨み、リユキは深く湯に沈む。オウカの隣にはクシロが無言で湯に浸かっていた。
ゆらゆらと湯から出た尾を揺らめかせて、リユキはぶくぶく、泡を作る。少し拗ねたようなその様子に、キリカは眉を下げて笑った。
「…拗ねないの」
「拗ねてねーし」
「マスターに笑われるよ」
「そしたらデコピンするからいい」
酷いよ、とキリカが言えば、ふん、鼻を鳴らしてリユキはそっぽを向く。そこにぐう、と音がした。
一斉に全員の視線が動く。
「…腹減った」
「…クシロ、お前が腹鳴らすなんて珍しいな」
腹を擦ってクシロが呟く。呆れた声でリユキが問えば、再びぐう、と鳴った。
少食で燃費の良いクシロの腹が鳴る姿を初めて見たシンオウ組は、呆れたり笑ったりと様々な反応を示す。ここに真麻がいたら指を差して笑っていただろう。
「お前やっぱりちゃんと食べなきゃダメだろ」
「…そんなにいらない」
「多分今日は食堂で食べるだろうから、ちゃんとご飯食べるんだよ?」
「善処する」
「…夜食作るか?」オウカの申し出にクシロは首を振った。
基本的に肉食ができるポケモン達の方が食事量が多い。リユキ、ライル、キリカ、真麻、オウカ、クシロ、ノエルの順でよく食べる。
まあノエルは元々食事はあまりしないが。
オウカは肉類がダメだが食事量は真麻とどっこいどっこいだ。クシロは肉類を食べられるが少食である。
「何食うかなー」
「…サラダ」
「いやお前はな?俺は肉がっつり食べたい」
「お肉食べたいね」
あれがどうのこれがどうのと喋る男性風呂は女性風呂よりゆっくりと風呂から出てきて、待っていたライルに怒られたのだった。
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