15
朝遅くに起きた真麻は手持ちに作ってもらった朝食を取り、のんびりと歩き出した。
キンセツシティを出て111番道路を歩く。その先にある112番道路のロープウェイを目指して脇目も振らずに歩いていく。
途中、目の前に広がる砂漠をボケッと見渡した。
「相変わらず砂漠だなー」
「なんだ、その感想は」
「これどれくらいで渡り切れるかな」
「地図上の長さとお前の足を計算に入れると、まあ3〜4時間ってところだろ」
「…4時間も砂まみれになるのやだなぁ」
「誰も砂漠を進めなんて言ってねぇから。ほら、曲がれ。そっちが112番道路らしいぞ」
リユキが真麻の肩を押せば、真麻は素直に道を曲がる。
そこからてくてくと進めば。
「…着いた」
「早くに着いて良かったな。ロープウェイで登って、下りてをすると1日かかる計算だからな」
「直線コース欲しい…」
すでにぐったりとした真麻の背中を押してロープウェイへと乗り込む。ガタン、籠はギィと軋んだ音を立てながら細い線を伝って登り始めた。
上へ、上へと登るロープウェイの窓から外を見れば、はらはら、はらはら。
灰色、薄茶の細かな綿が降ってくる。ほう、興味を引かれたリユキが外を眺めた。山の木々に積もった灰は、彼の故郷であるシンオウ地方の雪を彷彿させた。
「…すげーな」
「活火山すごいよね。上は死ぬほど熱いから覚悟してね」
そう言う真麻はすでにぱたぱたと手で扇いでいる。籠の中の温度がじわじわと上がっていくのに気が付いたリユキは、パチリと瞬いた。
「…そうか、活火山だもんな」
「もう初めて行った時は!な・つ!だったんだよ!?もう死ぬかと思ったから!」
叫ぶように言う真麻は、頂上に近付いてくるのを見やると、バッグの中から野宿の時に使う毛布を取り出す。バサバサと広げて、それを頭から被った。
頭巾のようにすっぽりと頭から体を包んだ真麻を見て、リユキは首を傾げる。
「なんだ?」
「灰が頭や肩に積もっちゃうんだよ。だから防御」
「…そうか。雪もそうだが灰の方が大変だったな」
雪は空気中のゴミなどの不純物を中心に固まった細かな氷の塊である。それに対して、灰はガラス繊維の塊だ。肌を刺す上に、目に入れば失明しかねない。
はい、真麻は替えの毛布をリユキに渡す。
「ボールに戻れと言っても、どうせ戻らないんでしょ」
「一応護衛のために出てきてるからな。ありがたくもらうわ」
真麻から受け取った毛布は柔らかい。火山の温度と相まって被ればかなり暑いが仕方ない。
真麻のように被ったリユキに真麻は窓の外を指差した。
「頂上だよ!」
はらはら、はらはら。
頂上だと言うに、なぜか上から灰が降ってくる。変なの、呟いた真麻に付いてきたリユキはひょい、熱を噴き出す穴へ顔を覗かせた。
穴の中は真っ赤。こんなにも赤いのだ、と主張する熱は、ぐつぐつと煮え立っている。時折ぷくり、ぷくりと泡が割れて湯気が上がる。
ふむ、頷いたリユキの服を真麻は引っ張る。
「危ないよ」
「シンオウは雪山だから興味深い」
「もう。ほら、行こうよ」
暑いし、続けた言葉にリユキも素直に頷いた。
毛布の上には灰が積もり始めている。頭を振って少し落とし、ロープウェイのすぐ傍にある山道に足を踏み入れた。
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