13


日の沈む前から、少女はベッドの上で丸くなり寝ている。外は夕焼け、じわじわと気温も落ちてきた。しかし、部屋のエアコンはぴったり20度に設定されており、涼やかな風を吹き出している。
もう1つ、隣の空いているベッドに、ぐったりとライルが転がっている。時折小さく暑い、疲れた、と溢す声からして、外の暑さにやられたようだ。ガタガタと小さめの冷蔵庫に物を詰めるリユキと共に、買い物から帰って来たばかりだった。

「いつ飯にする〜?」

「ちょっと待って、暑くて食欲ない」

「お前は真麻か」

マスターの気持ちわかる〜。
ライルはゴロンと寝返って、くぅ、眠る主を見やる。かれこれ2時間、寝ていた。
それから起き上がって、モサモサのコートを脱ぐ幼馴染みをねめつけた。

「あんた暑くないの?そんな暑そうな格好して」

「暑いけど慣れた。
お前の方が体温低いのになんでそんな暑さに弱いんだよ」

「水タイプだからって暑さに強い訳じゃないの!熱にやられてお肌カサカサになっちゃうんだからね!」

「へーへー」

リユキはコートをハンガーに掛け、放り出してある真麻のバッグを漁る。その行為にライルは眉を潜めるが、特に何も言わない。そのまま漁り続け、引っ張り出したのは木の実の入った専用ボックスだった。
それを開ければ乾燥させたり粉にしたりした木の実が入っていた。

「何作るの?」

「とりあえず茶ぁ淹れようかと思って」

「私渋くなければなんでもいいよ」

「うちは全員味に煩い奴らばかりだから、作る俺が困るんだが」

カチャカチャ、数種類の粉を取り出して混ぜ合わせる。1番煩いのはあんたでしょ、呆れて呟いたライルも湯を沸かし始める。
そうして湯が沸いた頃に部屋の扉が開く。紙袋を抱えたオウカにキリカが顔を覗かせ、ただいま、キリカが笑顔を浮かべる。
それにライルは変な顔をして、きょろきょろと部屋を見回す。

「ねえちょっと、この部屋の防犯どうなってるのよ」

「シンオウ組は買い出しだぜ」

「この部屋2人しかいなかったってこと!?万一マスターに何か遭ったらどうするの!!」

「ノエルにクシロがいるから大丈夫だろ。俺らと違って手加減できないし」

よくない!!
叫んだライルの口をそっとキリカが塞ぐ。むぐ、睨み付けたライルに、キリカは柔らかく微笑んだ。

「マスターが起きてしまうから。もう少し、静かに」

「…ごめん」

キリカの手を退けながら、ライルは小さく謝る。いいえ、微笑んだままキリカは冷蔵庫にしまうオウカの手伝いを始めた。
ところで。

「こうして茶ぁ淹れてる訳だが」

「夕食はいつにする予定?」

「マスターと一緒に食べるならかなり遅い時間になるけど」

「主人を起こすにしても、素直に起きてくれるとは思えない」

ドリップした木の実のお茶を、リユキは人数分配る。きっちり6等分、大きめのマグカップに注いで、はい砂糖、砂糖の入ったカップを真ん中に置いて、真麻の枕元に並んだボールを睨む。

「おいお前ら、出てこいよ。主なしの水入らずの茶会だ」

リユキが声をかけるとパカン、パカン、呆けた音と共にボールが開いて残り2人が出てくる。
丸いテーブルを真ん中に、ソファを6つ円に置いて、6人が座る。
まずはそれぞれ味を調整したお茶を飲んで、それから1番小柄なノエルが大きなソファに凭れて頬杖を付く。
いつもの馬鹿にしたような笑みを浮かべて。

「4人がいない間、誰も来なかったよ」

「そうか。まあさすがに誰か来たらこいつ起きるしな」

「…ノエルが主を襲わないよう、目を光らせていたが」

「クシロもありがとな。お前らがドンパチ始めたらさすがに以下略」

「途中で面倒臭くなるのやめなさいよ」

隣の幼馴染みをたしなめるライルも格好を崩して脚を組んでいる。ちょこんと長身を縮込めるキリカは、それで、とおずおずと切り出す。

「マスターどうしよう?」

「ガチで起こすの面倒臭くなってきたな。こいつは食欲より睡眠欲だからな」

「すぐ温められるご飯作って置いとく?」

「もうそれでいいんじゃない?あ、ボクもご飯いらない」

「お前はこの前【喰った】んだろ?お前も偏食だから相手したくない」

「俺もいらない。主にもらったフーズがまだ残っているから」

「お前は少食だから面倒臭い」

赤い短い髪をガシガシと掻きながらクシロが辞退すれば、リユキは本気で面倒臭そうに言う。
それから1人静かに飲み続けるオウカに視線を向ける。

「お前は?」

「食べる。主人は放って置いて良いだろう。どうせ起こしたところで起きない」

「お前意外と辛辣だよな、本人には言わないけど」

じゃあリーダーがそう言うんで。リユキはそう締めて茶会を解散する。すぐにノエルとクシロはボールに戻ってしまった。
空になったマグカップを洗いながら、リユキはキリカに何を買ってきたか問う。

「強力粉があったから、パン作ろうかなって」

「あ〜お前のパン久しぶりじゃねぇ?この部屋高い部屋だからオーブン付いてるしな、作れるぞ」

「本当はポケモンセンターに泊まりたかったんだけどね〜、まさか満室だと思わなかったな〜」

「他には?」

「小麦粉、塩、砂糖、ふくらし粉…」

指折り数えるキリカにリユキはピンときて米を研ぐオウカを見やる。

「お前ケーキ作るのか?」

「ダメか?」

「いやいいけど。あいつには絶対食後に出せよ?飯そっちのけで甘いもん食べたがるに違いねぇからな」

「わかってる」

米をセットしたオウカの隣でライルがじゃがいもと人参の皮を剥いている。それをキリカが大きめに切っていた。
今日の夕食はポトフーである。
広いキッチンでリユキは粉を振るう。それをオウカに渡して水を投入。
夕食作りと平行してデザート作りをしていた。
ゆっくりと夜がやってくる。当の主はすやぁ、手持ちの苦労など知らずに寝ていた。










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