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日が昇ればかさこそ、生き物が目覚め動き始める。ぐっと体を伸ばしたキリカは目の前に降り立ったノエルと交代する。
太陽さえ昇ってしまえば、キリカの目は遠くまで見渡せる。夜露に濡れた草を踏み締めながら、まだ眠る主の頭を撫でた。
リユキが片目を開けてまた閉じる。触るなとでも言いたげなその仕草に嘆息して、キリカは飛び立った。


太陽に照らされて白く染まる森を眺めて、危険がないか調べる。敵や悪意を持つトレーナー、大型のポケモンなどなど。さすがのキリカの主とは言え、頑丈さは普通の人間だ。自分からすれば障子紙と変わらない。
ノエルから聞いたユスラの影もないか探す。普段はただの眠そうな青年だが、あのサザンドラは人喰いの癖がある。今は大人しく結真の指揮下にいるが、最初真麻が捕まえようとした時はあの大きな口を開いて襲って来たのだ。
いつまた暴れるかわからない。それならば最初から近付けさせなければいいのだ。

(まあ俺じゃあ勝てない相手だから困ってるんだけど)

あの暗い桃色の瞳を思い出す。眠そうにとろんとしているが、愉悦と狂気に染まった瞳は正直怖い。それだけ危険だった。
ぐるりと旋回する。するすると音もなく主の元へ降り立てば、もう8時だと言うに真麻はリユキに寄り添って寝ていた。
これ以上地面に直接(リユキに寄り添っているが)寝ていたら風邪を引いてしまう。リユキも起こしてくれてもいいのに、と視線を向ければ僅かにそっぽを向かれた。
主を起こさないようにほんの僅かに。

「…マスター、起きて下さい。もう朝ですよ」

ゆさゆさ、肩を揺さぶればうぅ、主は唸る。元々一度寝たら中々起きないので、少し強めに揺さぶる。
爪が刺さらないように注意して肩を掴んだ。

「マスター!朝ですよ!」

「もう5分…」

「ダメです、ポケモンセンターやホテルならまだしも、ここでは体温が落ちる!」

「ううう、まってぇ…」

嫌々と首を振る少女にどうしたものかと肩から手を放せば、リユキが目を開けしっぽで真麻の頭を叩く。一度二度、叩いてようやく真麻は不機嫌そうに目を覚ました。

「…痛いんですけど」

「グルル」

毛布から出した手でリユキの頭を叩く。でもそれは、リユキが真麻に行ったものよりもずっと優しかった。その手を掴んで起こそうとしたキリカは、主の手の冷たさに驚く。
完全に冷えていた。

「今薪に火を点けます!」

「…そこら辺に小さな水場があったよね?火はノエルちゃんにやってもらうから、お水持ってきてくれる?」

はい、綺麗なバケツを手渡されキリカは頷く。飛び立つ背後でノエルが濡れていない薪に火を点けているのが見えた。


キリカが持ってきた水の半分は鍋に入れて沸騰させる。そこに乾燥させた肉やら野菜やら木の実やらをオウカが放り込み、調味料と共にぐるぐるかき混ぜる。
残り半分はまた半分にして水筒に入れ、残りを歯磨きや顔を洗う水に使った。跳ねた髪はライルに梳いてもらい、服の汚れを払って落とす。

「んー、おはよう」

真麻の挨拶にそれぞれが応える。できあがったスープを使い捨てのカップによそい、オウカがそれぞれに配る。もちろん、種族ごとに食べられないものを除いて。

「主人、熱いですから気を付けて」

「オウカちゃんありがとー」

カップを受け取った真麻はバッグからこれまた乾燥させたおにぎりを取り出す。それをスープに落として解す。
雑炊の完成である。
おにぎりはオウカにも渡して、割り箸を割って手を合わせる。

「いただきます!」

「「いただきます」」

主のテンションに対して僕達はやや低い。赤々と燃える炎を囲んで、各々がスープに口を付ける。体温の落ちた体に温かいスープは隅々まで染み渡る。
肉抜きのスープにおにぎりを混ぜた雑炊を啜るオウカに美味しいね、と真麻が笑顔を向ける。はい、小さく返事をしたオウカににっこりと笑った。

「ノエルちゃんは?」

「夜中に【喰った】からいらないんだと」

「なにぃ?また魂燃やしたな、あいつは」

じろりとノエルの入ったボールを睨み付ける。カタリ、僅かに揺れて返事をしたノエルに溜め息を吐いて、真麻はおかわりをよそう。熱々の肉や野菜に息を吹きかけながら、本日の移動について報告する。

「これからカイナシティへ戻ってキンセツシティへ向かう。今日はポケモンセンターに泊まろう」

「どこ向かってんだ?」

「フエンタウン行こうかと。温泉入りたいんだ♪」

ご機嫌で言う真麻にリユキは地図を広げる。
そこには【フエンタウン】の文字と大きな火山があった。
なるほど、山か。リユキの言葉に真麻は頷く。

「山登ってフエンタウンで温泉入る」

「火山灰…灰が降るんですか?」

地図に書いてある注意書きを読んだライルが心配そうに振り返る。うん、頷いた真麻は大丈夫だよ、と続ける。

「熱くないから大丈夫。雪みたいで私は好きなんだ」

「…白いんですか?」

「灰色から薄茶くらいかな。でもはらはらと降ってるのを見ると、シンオウを思い出して懐かしくなる」

シンオウ、呟いたライルは目を細める。夏でさえ雪の残る地域もあるシンオウは、自分の生まれ故郷だ。
とても懐かしい。

「…フエンタウン、楽しみですね」

「うん。と言う訳で」

鍋の最後をかき集めるリユキを一瞥して、真麻はパキンと箸を折る。

「みんなでお片付けだ!」

真麻の言葉にわらわらと僕達が片付け始める。真麻は袖を捲り、鍋を洗い始めた。












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