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ざわざわと潮風に髪が煽られる。
最初は柔らかかった潮風も、次第にベタつくようになった。肌も髪もベタベタになったと文句を言う真麻も、大地が見えてくると歓喜の声を上げる。
長い船旅も眠りから覚めた最初の数時間で飽きた真麻は、自分に挑んでくるトレーナーを手当たり次第に返り討ちにし、今は再戦を挑んでくるトレーナーを返り討ちにしていた。
だがそれも軽い指示を出すだけ。再戦を挑んできた相手は真麻の手持ち対策をしたようだが、単純にするだけじゃあダメだねぇと真麻は呟く。

「チャンピオン、真麻の勝利!」

「お疲れ様でーす」

ポケモン勝負専用のフィールドの上。オウカの【地震】でボコボコになった地面を歩いて、真麻はパートナーに抱き付く。お疲れ様、そう声をかけて優しく頭を撫でた。

「この船ジョーイさんいてよかったよ。痛いままは嫌でしょ?」

真麻の問いかけにオウカはぐるるーと唸る。その目の前でひよこを飛ばすポケモンに大丈夫かと声をかける対戦相手を見て、悪い子じゃあないんだろうけど、口の中で呟いた。
いくらエリートでも戦術だけじゃあ。喉元まで出かかった言葉を飲み込む。
「オウカちゃん戻って。休もう」

ボールに戻して、審判に頭を下げてステージを降りる。待ち構えていたジョーイにポケモン達を預けて、真麻は船の縁から少しずつ近付いてきた砂浜を見やる。
本来なら自分が手持ちから離れることは許さないと言われるが、傷付きダメージを受けた体では主を守れない。そう判断したポケモン達は静かに運ばれていく。
願わくば主が無茶をしませんように。前科のある主をあまり信用していないポケモン達は思った。
まだまだ目的地まで遠いのだから。


手持ちが帰ってきて少しすると港へと着いた。主は思ったより静かにしていた。
少しブルーが入っているように見える。
しかし、カイナシティはとても賑わっていた。真麻と同じようにポケモントレーナーをしている者はすぐに次の街へと向かう。トレーナーの中でもコンテストをする者はすぐに会場へと向かった。
真麻はと言うと。

「くわーっ、サイコソーダうめぇ!」

海の家で買ったサイコソーダを飲みながら市場を彷徨く。木の実を磨り潰して粉にした物を交換したり、食べ物を買ったり。
苦手な夏の日射しに若干許容オーバーを起こしながらチビチビ舐めるようにサイコソーダを飲んで、ようやく乗り換えの船のことを思い出す。カイナシティの船着き場を縫って歩いて、動く船を探した。

「104番道路へ向かうがよろしいかの、旅のお方」

「ハギさん、ちょっと他人行儀なんじゃない?」

「ほっほっほっ」

懐かしい老人は愉快そうに笑う。すぐに出る、と言う老人にお願いしますと真麻は頭を下げた。船に乗り込んで、船頭に立つ。背後にはゆらり、とオウカが立った。


「ひゃー!相も変わらず超高速!!」

水飛沫を上げて船は進む。途中に見えたムロタウンに手を振りきゃあきゃあと声を上げた。
声に集まるキャモメにウィンクを1つ、水から顔を出すホエルコに挨拶。楽しそうな少女の後ろ、オウカは昔の朧気な記憶を振り返る。
そもそも自分はここを知らない。
シンオウチャンピオンである目の前の少女は、従兄弟がいるホウエンに遊びに行くついでにこの地方を制覇した。新たな手持ちと共に。自分は知らない部分だ、はしゃぐ少女を眺めて思う。
それに気付いた真麻がオウカに笑いかける。こっち、と手招いた。
素直に従って隣に立てば、あれ、と指を差した先には緑の森。暗くて好き、と言った少女に呆れを含んだ瞳で見る。

「…明るいところにいた方がとても」

よく似合う。
語尾を弱めて呟いたオウカに、真麻は聞き返す。

「えっ何ー?よく聞こえない!!」

「…いえ」

なんでも、再び呟いた言葉は聞こえたようで、そう?首を傾げる。オウカは嘆息してもうじき着きますよと言えば、うん、大きく頷いた。

「私、ここに初めて来た時からオウカちゃんにもこの地方のキラキラしたとこ、たくさん見せたかったんだ!」

「…そう、ですか」

「オウカちゃんはお日様が似合うよ、とっても!」

どっちが。
小さく呟いた言葉は波に消えて、大きな振動が到着を知らせる。パタパタと階段を降りていく少女をオウカは追った。









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