5
ピリリ、小さな電子音。机に放置されていた端末を拾い上げたのは、明らかに人ではない影。
「はい、どちら様でしょう?」
通話ボタンを押して電話に出たのは若い女性の声。それに驚くことはなく、電話の主は笑い声を上げた。
「モモちゃんだー、結真君どうした?」
「今マスターは防音室にいます。真麻さんからとお伝えしましょうか?」
「お願いしたい。
今諸事情でホウエンに向かってて、ついでに結真君に会いに行くからと伝えて?」
「わかりました。ではお菓子をご用意してお待ちしていますね」
「はーい」
相手の嬉しそうな声を最後に通話は切れた。ゆら、とモモは亜麻色の髪を揺らして携帯を置く。そのまま地下にある防音室に向かった。
とんとんと聞こえていないだろうが一応ノックをする。それからガチャリと重い扉を開けた。
中にはたくさんの楽器。色石を嵌め込まれた手作りだろう楽器を手に少年はぼんやりとそれを眺めていた。
だがモモが入ってきた音に反応して少年は顔を上げる。柔らかに笑った。
「どうしたの?」
「マスター、真麻さんからお電話が」
「姉さんから?なんだって?」
「今こちらにお仕事で向かっているそうです。それでついでに寄るからと」
「…引きこもりが出て来たんだ?それじゃあお菓子たくさん用意しとかないと」
自分と同じ思考の結真に笑ってモモは頷いた。
かたり、と楽器を置いて少年は部屋から出る。階段を昇れば扉があり、開ければがらんとした大きなリビング。今日は誰もいないんだね、呟いてソファに座った。
机に置いてある携帯を手に取れば、メールが入っている。開けばパートナーの文字と写真が1つ。
結真は何気なく見て目を見開く。自身が姉さんと慕う従姉妹の隣には見たことのない長身の青年。冷たい表情に僅かに眉を潜めた青年がこちらを見ている。人ではないその目付きや角にポケモンだろうことはわかるが、手持ちにこんなポケモンはいなかったはず。
彼女のパートナーはジュカインではなかったか。とても気の強い女性だった。
少々混乱して瞬く主に気が付いてモモも後ろから携帯を覗く。そして主と同じように困惑して、どなたでしょうと呟く。
結真は頭を振った。
「…知らない。まあ姉さんのことだから新しい仲間じゃないかな」
「はあ。人見知り入ってるのにあの人はたくさんのお仲間がいらっしゃいますから…」
「メイやユウも姉さんのとこの子だから最初はびっくりしたよ」
「今日は…遊びに行ってますね」
揺れるピンクのツインテールや藍色の髪が見当たらないことに苦笑して、モモは結真の前にコーヒーを置く。ありがとう、結真の言葉に笑った。
きゅ、カレンダーに真麻の名前を書き込む。いつ頃来るかわからないが静かなこの家が一瞬で明るくなるだろう。
「楽しみだね」
結真は嬉しそうに笑う。モモも笑顔で頷いた。
▲