所謂吊り橋効果
「それって所謂吊り橋効果っちゅーやつやないん?」
白石の話を聞いた忍足の素直な感想だった。
部活終了後、白石に部室に引き留められた忍足は昨日の出来事を聞かされていた。日曜の部活は午前中で終わるため、他の部員は昼飯を食べに行くと既に部室を出ている。
俺もいい加減腹減ったわ……。
正直彼も昼食が食べたかったのだが、思い悩み深刻そうな顔をした白石を捨て置いていくわけにもいかなかったのだ。
「わからん……。でも苗字さんのこと考えるとドキドキすんねん……。」
「はぁー……名前にねぇ……」
包帯の曲がれた左腕を胸に当てて息を吐く白石に忍足は驚きを隠せない。
まさか自分の友人である苗字に白石が焦がれるとは思ってもみなかったのだ。
「っちゅーかなんでお前苗字さんのこと名前で呼んでんねん!そんな……そんな羨ましい!」
「勝手に呼べや!」
「無理に決まっとるやろ!舐めんな!」
「威張んな!」
ホンマこいつはヘタレやな!
ミスターパーフェクトだとか聖書だとか呼ばれているけれどよりふさわしいのは流行りの草食系男子、もっと言えばオトメンであると忍足は思っている。
白石は部室の長机に伏せながら頭を抱えている。はーとため息をついてから忍足は彼の背中をバシッと叩いた。
「明日、名前のクラス行ったらええやん。」
「無理や……」
「ふらーっと行ってサラッとお礼言うだけや。」
「お礼……」
「おん。」
「せやな!」
ばっと顔を上げた白石は満面の笑みを浮かべている。
コイツかわええなぁ……。
甘いもの平気やろか、と聞く白石に返事をしながら忍足の顔も思わず緩んだ。
コイツより乙女な女子、見たことあらへん……。
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