ダウト
今、私と仁王は珍しく二人きりだった。
放課後、柳生は生徒会役員が話があると言って連れて行かれた。さて帰ろうかと思ったところを仁王に引き止められ、誰もいない教室に向かい合わせに座ったのだ。
「お前さんテニス部見にきたりせんの?」
「混んでるじゃん。」
テニスコートの周りには応援と称して結構な人が集まっている。
過剰に騒ぎ立てたりはしないものの、柳生がそれをあまり好んでいないことはリサーチ済みである。だから私は直接コートに行ったことはなかった。
机を挟んで向かいに座る仁王がぐっと顔を寄せる。整った鼻筋が目の前にあった。
「残念じゃの。お前さんが応援してくれたら百人力なんじゃが。」
テニス部にはイケメンが多い。仁王もミステリアスだとかクールだとか言われるモテ男だ。
今まで仁王は黒髪だったり茶髪だったり、年上だったり年下だったりと様々なタイプの女の子達と噂されていたが、私の知っている限りではあるがその子達には一つの共通点があった。
「みんなに言ってるんでしょ」
体を後ろに引いて仁王と距離を取る。
「俺は本気なんじゃけど」
あいた距離を再び詰めるように仁王が動く。嘘だ。
仁王の歴代の彼女たちは一時期柳生のことが好きだった。
なぜ私がそんな事を知っているか?恋は戦争、噂話には敏感になっておかなければならないのだ。仁王の彼女を知っているのも、そうして知ったライバル達が彼女になったと噂されていたから。
鼻と鼻がくっつくんじゃないかと思うほどに近くに仁王の顔がある。
じいっと、琥珀色の瞳が私を見つめていた。彼は自分の魅力を知っていて、どうすればそれが人に効果的に働くかということも知っている。
彼の瞳が私を誘っていた。
仁王は私が柳生の事を好きな事に気がついていて、極力私が柳生と一緒に居ないようにしていたのだろう。
それからもう一つ。
「残念だけど」
「私は」
「アンタに落ちないよ」
仁王は私を惚れさせようともしていた。
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