キーピング
柳生と仁王と私、座席が近い事もあり三人で話をする事が多くなっていた。今年の春に初めて言葉を交わした仁王も、話してみればとても楽しい人だった。これは柳生にも言えることだが、仁王は話が上手い。
「週番ワーク回収してもってこいなー」
週番は座席の隣同士が一週間ずつ持ち回りで行う。今週は丁度私と柳生が当番になっていた。テストと一緒にあるノートやワークの提出の時期に。
ショートホームルーム終了後、担任兼古典担当教師のかっちゃんがそう言い残して教室を出て行った。
「だそうですよ苗字さん」
「了解。集めちゃおうか。」
クラス全体に声をかけて、教卓の上に全員のワークを集めてもらった
一冊一冊は薄いそれも、一クラス分集めるとなると結構な厚さになる。当たり前のように山を不均等に分けた柳生はもちろん大きい方を手に持った。
こういうところが彼が紳士と言われる所以なのだろう。
そんな柳生の行動にときめきながら残りのワークに手を伸ばした。
「俺が、持ってっちゃる」
私が束を持ち上げるより速く、仁王がそれをひょいと手に取った。
「あ、いや、でも悪いよ。」
「いいんじゃ。どうせ部活に行くついでに寄るだけじゃき。」
「ああそうですね、職員室は通り道ですから。」
「どうせ日誌も書き終わっとるんじゃろ。持ってきんしゃい。」
「ああ、うん……。」
自分の座席に戻って日誌を取り出すと、それもテニスバックを背負った仁王の手へと移っていった。見れば既に柳生も荷物を持っている。
「荷物あるけど、平気?」
「お前さん男をなめるんじゃなかよ」
「えぇ、問題ありませんよ」
「そっか。じゃあよろしくお願いします。」
了解しましたと二人が教室を出て行く。ニヤリ、仁王が笑った。
「仁王って思ってたより優しいよねー」
帰り支度を既に済ませた友人が二人が出て行った方向を見ながら感心したように呟いた。
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