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教室の窓から見える外はもう真っ暗になっていた。一昨日から三日間、柳生と仁王と放課後を共にしていた。部活で忙しいにも関わらず成績の良い二人だ。正直とても助かった。
前に教えてもらったときにも思ったが、意外に仁王は教え方が巧い。いつもは壊滅的な数学のテストも、期待できそうだ。
「帰るぜよ」
仁王が鞄を持ち上げながら言った。部活が無いためいつものテニスバックではなくスクールバックを肩にかけている。とはいってもその鞄はぺったんこで中身はあまり入っていなさそうではあるが。
「帰りましょうか」
「うん」
一緒に勉強をした初日、二人に別れを告げて帰ろうとした私を引き止めたのは柳生だった。
「もう暗いですから、一緒に帰りましょう」
「え…?」
「苗字さんも電車通学ですよね。あ、どこか寄るところがありましたか?」
「ううん!ない、ないよ。じゃあ駅まで」
「二人とも早くしんしゃい」
それから15分程の道のりを三人で歩いた。
それが一昨日のこと。それは昨日も同じで、どうやら今日もそうなりそうだ。
校門を出て閑散とした住宅街を歩く。大通りに出ればすぐに駅。二人とは電車の方面が違うからそこでお別れ。
私は高校から立海に通っているが、二人は中学も立海だという話も聞いた。
駅から学校まで普段は少し距離があるなぁなんて思っていたけれど、話をしていたらあっと言う間だ。
「………比呂士君……?」
駅の改札に定期を通した所で私でも仁王でもない声がかかった。驚いて後ろを振り向くと、そこにはバイオリンケースを持った、可愛らしい女の子の姿。
清楚な雰囲気と親しげな様子はただの友達、といった関係ではなさそうである。
「………柳生の元カノぜよ」
ぼそりと呟かれた仁王の言葉にやっぱり、と一人納得する。
柳生も普段とは違う穏やかさを醸し出している気がした。
多分、柳生はまだ彼女のことが、好きだ。
「柳生は止めときんしゃい。」
好きの気持ちは自分の意志で変えられるものじゃない。それは柳生も、私も同じことだ。
「じゃ、また。テスト頑張ろうね!」
仁王の言葉を背に私はホームへの階段を駆け下りた。
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