キスユー
「苗字さん、今年も同じクラスですね。よろしくお願いします。」
レンズの向こうで柳生が微笑んでいた。私の目には柳生の周りがきらきらと光って見える。
神様ホントにありがとう!今年も柳生と同じクラスにしてくれて!
つい昨日まで春休みが終わるのが憂鬱だと嘆いていたのだけれど、そんなの朝クラスに入った瞬間に吹っ飛んだ。
柳生比呂士
強豪校である立海のテニス部レギュラーで、しかしそれを鼻にかけることもなく、成績も優秀で、紳士……とまあ柳生の素敵なところはどんどん出てくる。そんな具合で、私は柳生に恋をしている。
一年の頃は委員会が同じだった。
はじめは連絡事項を伝えるぐらいの関係だったのがいつしか日常会話をするようになり、気が付いた時には柳生が輝いて見えるようになっていた。
柳生の好みが清楚な子だという噂を聞いたから染めていた髪を黒に戻して、スカート丈も伸ばした。去年同じクラスになったときは真面目に授業に取り組んだおかげで成績も伸びた。柳生効果は素晴らしい。
去年は風紀委員の倍率が高く同じ委員会になることは出来なかったので今年こそは、と内心で意気込んでみる。
「やーぎゅ」
「……っ!仁王君ですか…」
突然ガクリと柳生の頭が揺らいだ。
ガバッと、珍しい銀色の頭がうしろから柳生にのしかかっている。
仁王雅治、柳生と同じテニス部でレギュラー、話をしたことはないが、ダブルスを組んで試合をしているのを何度か見かけたことがある。この頭髪だ、間違えることはない。
「仁王君も今年は同じクラスですね。」
「よろしくぜよ……で、お前さんは……随分と仲が良さそうじゃが」
な、仲良さそうに見えるのかな……!
それは嬉しいと内心喜ぶ私をじぃと、仁王君が見つめる。
ミステリアスでクール、詐欺師でイケメンと不思議な噂が流れている彼。確かに噂通り整った、きれいな顔立ちをしている。
そんな彼に見つめられると居心地の悪さを感じずにはいられない。
「彼女は去年同じクラスだった苗字さんです。」
「どうも、よろしくお願いします。」
「おお、よろしくナリ」
にこっと可愛らしく仁王君が笑った。遠目から見たときは取っ付きにくそうな雰囲気に思えたが実はそんなことは無いのかもしれない。
高校生活最後の一年、良い年になるといいなぁ、穏やかな春の日差しを受けながらそう思った。
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