どうか今は騙されて


「あ、小十郎せんせー!」

昼休み、渡り廊下で逞しい後ろ姿を発見。ラッキー。寒さに嘆いていた私は一瞬で何処かに消え去った。
学年が上がって授業担当から外れてしまった小十郎先生。私に先生と会う機会はそうないのだ。

「ん?」

私の声が聞こえたのだろう、先生が振り返る。頬の傷跡が私の目にはいるのとほぼ同時、先生の抱えていた白地図がボトリとこぼれ落ちて二、三回転して止まった。

「持ちますよ。」

先生が手を伸ばすよりずっと速く、自分でも驚くほどの反射神経でもって、見た目の割にずっしりとしたそれを拾い上げた。口実なんて何でも良かった。せっかく手に入れた機会を逃すまいと、白地図を腕に抱いた。

「わりぃな。」

「社会科室ですよね?」

「あぁ。」

任せてください!私はそう言って先生の隣に並んだ。





つくなつくなと念じていた社会科室には、東校舎のはずれにはるはずなのにあっという間に無事到着。

「じゃあこの荷物、ここに置きますね。」

腕の中の白地図を壁際に立てかけた。隣には地球儀だとか鉱物の資料だとかが所狭しと並んでいる。

「悪かったな、手伝わせちまって。」

「いいんですよ。暇だったんで。」

そう言って笑えば小十郎先生もニコリと笑った。珍しい。
もっとこんな笑顔を出していけば“ヤのつく人”なんて言われないのに。
かくいう私も最初は顔面の傷にビックリした口だ。教室に入ってきて、片倉小十郎だ。よろしく。とだけ言って授業に入ってしまうのだから。
まぁ、良い先生であることはすぐにわかったのだけれど。

「じゃあ少し時間あるか?茶ぐらい淹れるぞ?」

「え、いいんですか?」

「今日は冷えてたからな。暖まっていけ。」

さっきよりも笑顔が優しく見えて、喉の下がきゅんっと締め付けられた。

「やった!先生大好き!」




どうか今は



「あぁ、俺もだよ。」



      騙されて




(081221)密か事に提出!




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