抱きしめる




キッチンから香ばしい匂いが漂ってきた。抱きしめていたクッションから顔を上げて座り込んでいたソファから立ち上がる。バタバタとキッチンに向かえば、オーブンの中では鶏肉がチリチリと焼かれていた。
オーブンのドア越しに見えるその姿はいい具合に焼けてきたようで、おいしそうに焦げ目がついている。我が家のオーブンがこんなに便利な道具だとは思っていなかった。残念ながらこれを作ったのは自分ではないのだけれど。



「なんだか、お預けくらってる犬みたいだよ。」



胡椒を片手に、作者である佐助が私の後ろに現れた。何でこんなにエプロンが似合うのだろう。料理に洗濯何でもござれ、だなんて……。ちらりと佐助を見、なんだか少しばかり悔しかったのですぐに視線を鶏肉に戻す。

それがあまり面白くなかったらしい、むっとした雰囲気が背中にささった。まずったか、と振り返ろうとした途端、後ろからぎゅっと抱きしめられた。



「俺様も、かまって?」



突然の事に一瞬思考が停止してしまったが、そんな彼がかわいくてかわいくて仕方ない。
なんだか今日は甘えたな彼に、大サービスだと、体を向き合わせて抱きしめ返す。
嬉しそうに肩口に顔を寄せるから、どっちが犬だがわかりゃしないな、なんて思って少し笑った。




(抱きしめる)




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テーマ「人外ファンタジー」
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