思春期



「う゛ぉぉぉぉい!!呼んだかあ゛!」

「うるせえ黙れカス。」


瞬間俺の目の前に星が飛んだ。転がる灰皿。
ずきずきと痛む額を抑えながらこの理不尽な暴力への文句を言う……ことが許されるはずもなく、俺は大人しくザンザスの前へと足を進めるのだった。
俺も成長したものだ。


「……で、いったい何のようだってんだぁ。」


ゴトリ、と拾い上げた灰皿をザンザスの机の上に戻しながら問えば、彼は重々しく口を開いた。


「……テメェに聞きたいことがある。」


まるで地獄の底から這い上がるようなザンザスの声に冷や汗が垂れた。


いったい俺は、何をした。


この間の任務は問題なくこなしたはずだし、書類だって溜めていない。さっきだって文句も言わなかった。
ていうか俺マイナスに考え過ぎじゃねぇか?とは思うが悲しいかな、何か良い知らせがあって呼ばれたとも思えないのだ。


「な、なんのことだぁ?」

「………苗字名前。」


名前お前何をした!?
もうコイツとは長いつき合いだが、ここまで恐ろしい顔はなかなかお目にかかれない。
名前は失うには惜しすぎる人材だ。なかなか仕事のできる奴で俺も重宝している。だがしかし、この鬼の形相をした男から俺はお前を守りきれるだろうか。


「名前なら俺の隊だなぁ。」

「カスが。そんなこと知っている。」


ザンザスの眉間にさらにしわが寄る。普段の五割り増しの凶悪さだ。普段でも十分すぎるほど凶悪だというのに。


「苗字は……。」


ザンザスが口を開いたと同時、部屋のドアが控えめに叩かれた。
おいおいおいやべえぞぉ今は……!!
ボス、いらっしゃいますか?苗字です……って名前お前かーー!
ちょっ、タイミング悪すぎるだろぉぉぉ!
いざというときはお前を逃がしてやることぐらいは出来るだろうか。


「本部からのお手紙をお持ちしたのですが。」


どうしたものかとザンザスの方をみれば、あ゛?いない……?


「おいカス、受け取っておけ。俺はいない。」


なにしてんだコイツ!
何で良い歳したおっさんが机の下隠れてんだよ!地震あってもお前隠れたことねぇだろお゛ぉぉぉい!


「はやくしろ。」


姿は見えなくても今ザンザスがどんな顔をしているのかが手に取るように分かる。眉間にシワを寄せた恐ろしい顔だ。
仕方なしにドアを開ければ、驚いた顔をした名前が俺を見上げていた。


「すっ、すみませんお話中でしたか!?」

「い、いや、今いねぇみてぇだからそれは俺が渡しておく。」

「いやいやいや隊長にそんなことをさせるわけには。」

「遠慮はいらねえぜぇ!(さっさとそれを渡して逃げろ名前#…!)」

「(え?に、逃げ……?)あ、ありがとうございます?それじゃあお言葉に甘えて……。」



俺の有無を言わせぬ口調に申し訳なさそうに紙を差し出す名前。それを抜き取れば、彼女は失礼しますと頭を下げて去っていった。


「う゛ぉ、う゛ぉぉぉい……。」


振り返れば力無く立ち上がるザンザスの姿。その姿はどことなく覇気が無いように見える。
俺は、机の下から這いだしてくる上司の姿なんてできれば一生見たくなかった。


「ど、どうしたぁ?」


ってあれ、なんかコイツ顔赤…………


「コォォォォ」

「え、は?ま、待てぇぇぇぇ!」


鮮やかな光を放ち始めるザンザスの手のひら。
爆風の中、とっさに手の中の手紙を守ろうとしているあたり俺も随分と成長したものだ。





^ω^)/ボスが好き!




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