愛を叫べ!





「カラオケ行こーぜ!」

また始まったか。
今日もハードな練習を終え、汗が冷える前に着替えようと俺が部室に入るやいなや、藤真が楽しそうに言った。
なにも藤真の気まぐれは今に始まったことではない。自分でコーラが飲みたいと自販で買ってきたくせに、やっぱり俺アクエリがよかったなんて言ってそれの処理を俺に押し付けるような男だ。(そして金を請求してくる男だ。)


「な、カラオケ行、こ、う、ぜ!」


カラオケ、俺いつから行ってないだろう。
ぼーっとしていた俺のケツをバシッと叩きながら藤真は同じ台詞を吐いた。


「なぁ、行くよな、花形?」


誰だコイツのことを王子とか言い出した奴は。この顔を見て果たして同じことが言えるのか。
俺がこの誘いを断ることはできないということを瞬時に理解した瞬間だった。






「いらっしゃいま………あれ、花形くんに藤真じゃん。来るんだ、こういう所。」


二人連れ立って店のドアを開ける。そこで俺達を迎えたのは同級生の苗字だった。


「ま、まあ、な。な、花形!」

「……いや別にそうでも「だよなぁ花形?」

「……たまに。」


俺のケツが再び痺れた。
挙動不審な藤真の瞳は右へ左へ揺れっぱなしだ。
あぁ、そういうことか。


「なんか意外かも。歌ってるとこ、想像できないなぁ。」


そう言って笑いながら苗字は伝票を取り出す。手を伸ばそうとした俺の手を思いっきり叩いて、藤真がそれを受け取る。空気読めよ、と藤真の瞳が言っているのは気のせいではない。


「じゃ、じゃあさ、……そ、その今度苗字も一緒に、来よう、ぜ。」


声ちっさ……!
普段の覇気は何処へやら。藤真のその蚊の鳴くような声は案の定苗字には届かなかったらしい。カウンター越しの彼女は頭にクエスチョンマークを浮かべていた。チラリと見た藤真の顔はいっぱいいっぱいでもう一回言う、なんて事はとても出来そうにない。


「……今度苗字も一緒に、だって。」

「え、あぁ!うん、楽しみにしてるね!」







「あー花形むかつく!花形超むかつくけどまじありがとう!」


あの後藤真にバシバシとケツを叩かれた俺。現在マイクは藤真に握られていて、俺に回ってくる気配はない。
まぁ、別にいいんだけど。
軽快なリズムに乗せて藤真が愛を叫んでいる。そのぐらいはっきり本人に言っちまえばいいのに。言ったら俺のケツが大変なことになるのは目に見えていたから、俺はそっと心の中で呟いたのだった。





カラオケでシャウトする友人の横、僕は世界の未来を憂いてる





そうだ、俺が最後にカラオケに行ったのは確か、一年の文化祭の打ち上げの時だ。
まぁまたすぐ来ることになるんだろうけど。


090527 title by >不在証明

ヘタレ藤真\(^p^)/




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