空中に夢散
彼女と特別な関係になってからどれぐらい経っただろうか。今ではこうしてお互いの家に上がり込むほどになった。だからといって何かするでもなく、今はただぼうっと二人並んでバラエティーを見ている、わけなのだけれど。
ほんとはさ、俺様もうちょっとイチャイチャしたいよ?今抱きついても良いかな、とか。あ、一緒にお風呂、なんてどうだろ?名前ちゃんに背中流してもらって、もちろん俺も名前ちゃんの背中流して。楽しそうじゃない?俺が。まずいちょっと顔にやけた。でも名前ちゃん恥ずかしがり屋だからなー。絶対オッケーしてくれないよなー。
悶々と妄想ばかりが膨らんでいく。
「どうしたの、佐助。飽きた?」
「いや、そんなことないよ。」
隣でテレビを見ていた彼女がそう言ってテレビを消した。どうやら彼女の目には俺がつまらなそうに見えたらしい。気を使わせちゃったかな。まぁいかがわしい事を考えていると思われるより全然良いんだけど。
彼女がガラステーブルにリモコンを置く。どうやらもう付ける気は無いらしい。もしかしたら飽きていたのは彼女の方だったのかもしれない。しばし流れる沈黙。けれどもそれは苦痛では無かった。
こうして時間を持て余す、なんてのは満たされているからこそ、なんだよな。そうだよ俺。一緒にお風呂行きたいなんて我が儘言っちゃだめだ。
「あ、そうだ佐助。お風呂行かない?」
「あーそれ良……良いの!?」
千切れるんじゃないかってぐらいに勢いよく彼女を見る。ってなんで俺そんな不思議な顔で見られてるの!?俺変なこと言ってないよ、ね?
「好きじゃない?」
「いやいやいや好き好き!超好き!」
なにこのまさかの展開!夢オチだったら俺様怒るよ。名前ちゃんから言ったんだからね、やっぱりなかったなんてのは俺様聞かないから!
「良かった!ずっと行きたかったんだよね。新しくできたスーパー銭湯。」
それから気がついたら女湯に向かっていく名前ちゃんをのれんの前で見送っていた。
俺もゆっくりと湯に浸かる。
俺の夢は立ち上る湯気と一緒に消えていってしまったのだった。
空中に夢散
(まさかどっかのおじさんと並んで風呂に入るとはねー)(まぁこれはこれで気持ちいいからいいんだけど)
081023