陽の中の君が笑う




最初に言っておく。俺の彼女は吸血鬼だ。



吸血鬼と言っても太陽の光を浴びられないとかそんなことはなくて、生きていくのに少しばかり人の血液が必要なだけらしい。ニンニクも十字架も平気。杭で心臓を突かれなくても死ぬときは死ぬ。こないだ通りかかった店でクロスのペンダントを可愛いと言う、普通の女の子。
そもそも全部彼女から聞いた話であって、実際に俺が名前の吸血鬼の姿を見たわけではない。それらしさといえば白い肌と、朝が弱いということだろうか。
まるで彼女は月のようだった。


少し前に名前に聞いたことがある。血を飲まなかったらどうなるのか、と。彼女はただ笑いながら喉が渇くと、そう言った。それでは血を飲んだらどうなるのか。単純な疑問だった。



「昂る、かな。体中が熱くなって力が溢れてくるんだ。」



となると俺は名前の生き生きとした、本来の姿を見ていない事になるのではないだろうか。少し残念だ。


俺の隣に座る彼女の肩をつかまえてみても、何か違いがあるようには思えなかった。そのまま窓の外に目を向ければ、黒くなり始めた空に登り始めた月があった。どうやら今夜は満月らしい。


ふいに俺の長い髪を弄んでいた名前がその手を止めて、俺の耳元で囁いた。ごめんね。





そして俺は今日もまた天上に輝く満月を見ることなく、ゆっくりと意識を手放していく。











080815





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