健やかで健全なる明日




忘れていたことがある。



それはきっと忘れてはいけないランキングが在るとするならば上杉先生の夏休みの宿題より上位にランクインするかもしれない。まぁそれらはどちらが上であろうがどちらも忘れていてはいけなかったもので、宿題は新学期まで猶予があるからまだ良かったのだけれど、もうひとつ、彼の、政宗の誕生日という小十郎が異常に張り切って普段じゃ拝めないくらい爽やかな笑みを浮かべるという年に一度のイベントってのが今日なんだよな!

まずい、今から私になにが出来るだろうか。

夏休みで少し顔を会わせないからといって油断しすぎていた。
小さい頃は、まーくん来月お誕生日だねーとかまーくん来週お誕生日だねーとかまーくん明日お誕生日だねーとか言ってたぐらいなのに。ていうかまーくんってなんだよ昔の自分。浅井君私のこの過去を削除してくれないかな!

去年は部活のおかげでほぼ毎日顔を会わせていたからこのイベントを難なく乗り越える事ができたけれど、今年は既に部活を引退してしまっている。
そうだよ政宗私達受験生だよ!
それを理由に逃げようかとも思ったけれど受験生というステータスはこの件に関して大した効力を発揮しないのは明らかだ。私がちょっと暗くなっただけだった。

最後の願いとしては少女マンガのヒロインもしくはやんちゃな少年のごとく政宗が自分の誕生日をことごとく忘れてるっていうそれはそれで物悲しい事態を期待するばかりなのだけれど

「Hey!迎えにきたぜ!」

政宗来たー!忘れてなかったー!
毎年張り切った小十郎はじめ伊達組の皆さんによる筆頭の誕生会にはお隣さんという事で毎年お呼ばれしているのだ。

「早くしろよ!料理が冷めちまうだろ。」

ちょ、ちょっと待ってくれまーくん!
今からじゃ適当にお菓子を作るなんて間に合わないし……。あぁまだあけてない大学ノートの5冊組が……だめだよ小十郎が許さねぇよ。

「ほら行くぞ!」

じれた政宗により半分引きずられるような形で私は家を後にした。私の明日は危うい。小十郎によって。










「ごっ、御馳走様でした。」

美味しいはずの伊達さんちの晩御飯は味がわからなかった。

「おい。」

小十郎のその一言で、すぐに大きなケーキが目の前に登場した。ついに、来てしまったこのときが。
チラチラと揺れるろうそくの炎が私の命の灯火に見える。あっ、消えた。

「筆頭お誕生日おめでとうございまーす!」

「Thank you!」

それを合図にどんどんとプレゼントが贈られていく。
もうすぐ私の番が……来た。

覚悟を決めろ。恥じらいは捨てろ。この作戦はどれだけ堂々と言えるかにかかっているのだ。

「今までいろんなものを贈っちゃって、何にしたらいいか分からなかったんだ。だからプレゼントはア・タ・シ。」

ここで政宗はじめ伊達組の皆さんがいらねーよと笑い飛ばしてくれれば良いのだ。後々顔を会わせにくくはなるが自らの健やかなる明日のためと思えばなんてことはない。さぁ笑ってくれ!

「よく……よく決意してくれた!」

「え、あの、小十郎?」

「俺、感動したッス!姉御!」

どうしたのこの人達!?状況を察してくれそうな成実を見たけれど使えそうになかった。

「ねぇ政宗これどうし――」

ちょ、政宗ー!な、なんで満面の笑みなんだ!
近い近い近いって!

「せっかくHoneyが告白してくれたんだ。ここで応えなきゃ男じゃねぇ。」

男じゃなくていい!口に出そうとしたその言葉は塞がれた唇により紡がれることはなかった。





健やかで健全なる明日






080803 おたおめ!




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