ふたり
私と彼との付き合いは、私が覚えているところからカウントしても軽く十年は超えている。途中疎遠になったこともあったけれど、不思議と縁が切れることはなく、今も二人で馬鹿騒ぎをしたりしている。
むわり。
季節は夏だった。玄関をあけた途端昼の間閉じ込められていた空気が顔にかかる。思わず顔をしかめた。勝手知ったる足取りで彼のアパートの部屋の窓を開けたのだけれど、外の空気も中とさほど変わらない。入ってきたのは生温い風だった。
「チカ、エアコンいれよ。」
「あー。窓、閉めろよ。」
元親は部屋の真ん中のガラステーブルに買ってきたアルコールを並べながら言った。
久々に二人で飲まないか。元親からそんなメールが入っていたのは、仕事を定時で切り上げた金曜日だった。明日は休みだ。それも良いかもしれない。
仕事を終えた元親と合流して、コンビニに寄って。二人で飲むときは大概彼のアパートだった。
「今日も一日おつかれー!」
かかげた缶がガショッと間抜けな音をあげる。格好が付かない、そう言った私に元親は今更だと笑った。
最近のお笑いのことだとか、仕事のことだとか、そんな話をしてゲハゲハ笑った。つまみはイカとホタテの貝柱。いち、に、さん。空き缶が増えていく。
「あっ、ばかチカ、それ私の!」
「は?」
私は元親の持つ缶を指さして言った。お気に入りのメーカーの夏の新作チューハイ。
「もう開けちまったし。」
そんな私の非難を無視して彼は迷わず缶に口をつけた。とびでた喉仏が動く。(飲まれた……!)
「お、うめぇなコレ!」
そんなことを言われて私が黙っていられるはずがなかった。
「このやろっ!」
私は彼の手の中の缶を奪った。キラリ、アルミのパッケージが光る。中身が少し零れてしまったが気にしないでおこう。
さながら悪に捕らわれていた姫を救い出した気分だった。
「お前、やめろ……!」
焦った元親が私に手を伸ばすよりはやく、私は缶に口をつけた。
「ほんとだ。美味しい。」
さすが私が贔屓にしているだけはある。勝ち誇った笑みを元親に向ければ、其処にいた彼は呆然として固まっていた。変な奴だ。このすきに、と残りの酒も一気に嚥下すれば、彼の顔は真っ赤に染まっていた。
「おま、お前それっ、か、関節………。」
「え、チカまさか。」
この年になって。
長年一緒に飲んできたが、コイツは酒にめっぽう強かった。つまり、この顔の赤さの原因は。
「あーくそ。なんでもない!」
半ばやけ気味に言って彼は新しい缶に手を伸ばした。カシュッ。炭酸が音を立てる。
私も慌てて次の缶に手を伸ばした。なんだか暑くてしょうがない。きっとエアコンが効いていないのだ。
080527