放物線上の心意



乾いた音と心地よい左手の軽い痺れ。照りつける太陽は頂点をすこしだけ回って西への進路を辿っていた。
グラウンドいっぱいに響くかけ声に気温は増して。本来真っ白のはずのユニフォームは土を纏ってその姿を変えていた。どうしたって手に入らないそれが、うらやましかった。

その姿を横目で追いながら元親先生の投げたボールを使い込まれたグラブで受ける。重い球だ。やっぱり先生、良い肩してる。


「余所見してんなよ!」

「ごめーん。」


右手にボールを持ち替えて返球。それは先生にむかって真っ直ぐ飛んでいって、ワンテンポ遅れてパシンッと音がする。


「……お前良い球投げるよなー。」


――女子にしては。
聞こえない声がどこからかしてきて私の頭を抑え込む。
野球が好きだった。小さい頃から少年野球団に入って、高校生になったら甲子園に行くんだって夢見てた。速い球だって投げられるし、足だって速いし、打率だって良い。
でも全部、女子にしては。
女子は野球部に入れない。甲子園も目指せない。突きつけられた現実に悔しくて泣いた中学時代。


先生が私に返したボールを受ける。やっぱり凄く、重い球。
これだよ、この差。だって元親先生、全然余裕なんだ。やってられないよ。
でもそこに私は惹きつけられた。


今ではその埋められない差に泣くことなんてしなくなった。野球部のマネージャーとして、結構充実した日々を送っている。たまにもどかしくなる時もあるけど、こうして先生にキャッチボールの相手もしてもらってるし。


「お前ホントに野球好きだよなー。」


そうだよ好きだよ。馬鹿みたいにひとつのボールを追いかけ回すのが好き。キンと響くバットの音が好き。左手に残る痺れが好き。先生とするキャッチボールが好き。好き。好きだよ、先生。

叶わない思いなら消えてしまえばいい。空に向かって手の中のボールを投げ上げた。太陽光が反射して、一瞬、それは空に溶けた。








「どこ投げてんだよー!」


眩しさに細めていた目を開けて先生を見る。先生のグラブに確かに収まっている白い球。
馬鹿、やめてよ、それ取らなくて良かったのに。




(081221)密か事に提出!




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