▼ あなたと、クッキング!
ねぇ教授、あなただけに作りたい。
たっぷりと愛情がこもった、私の手料理を…。
どうして外国の料理って、こんなに油っこいんだろう……。
しもべ妖精の料理がまずいって言ってるんじゃないよ?イギリスの料理って、お世辞にも美味しいとはいえないじゃんか。だから、この世界に来たときはある程度覚悟はしていたつもりだ。
味は良いんだよ?その点は驚きだった。だけどね、油っこすぎやしませんか?
そして朝はほとんど同じメニューなんだもの。もうちょっとバリエーションがあってもいいんじゃないでしょーか…。
私は朝食のクロワッサンと目玉焼き、ベーコンを見てそう思ってしまった。
海外旅行とかに行ったら、確かに数日間はいいかもしんないよ?こういう食事もさ。だけどこれがずーっと続くのだ。毎朝ほとんど同じメニュー。マジでほとんど同じ。時々ゆで卵になることはあるけど、ほとんど同じ…。
こんな食事日本人は耐えられませ〜ん。
朝はさ、真っ白いご飯に、味噌汁、そして焼き魚がないと!納豆とかもいいな。
もぉ…限界…。ホームシックじゃないよねこれって。日本食シックっていうんだろうか…。
私がクロワッサンをちぎってげっそりした顔で食事をしているのがよっぽど不思議だったんだろう。ハリーが不思議そうに聞いてきた。
「ねぇ…レイ、どうしたの?元気がないけど…」
私は力のない笑みを見せながら、
「いや、日本食が食べたくてさ。もう大分食べていないから。毎朝これじゃあさすがにもう限界っていうか…ははは…」
そう言ってクロワッサンを紅茶で流し込む。
ハリーはああ、って顔をしながら、
「そんなに違うの?日本食って」
と聞いてきた。
何言ってるのさハリーってば。マグル世界にいたんだから、日本食レストランなんて今時ロンドンあたりに沢山あるだろうに。
私は意外に思いながらも、
「何言ってんのさハリー。マグル世界にいたんだったら日本食くらい知らないの?ロンドンにも沢山あるだろう?」
私がそう言うとハリーは恥ずかしそうに、
「行った事なかったから…」
と言ってきた。ああ、そうか。あのご家庭じゃあハリーをそんなとこに連れて行くわきゃないだろうな。ごめんねハリー。
私はすまなそうな顔をして謝った。
「ごめんごめん、知らなくって当然だよね?えっとね、日本食というのは……」
私はハリーに向かって日本食について熱く語ってしまった。途中からロンやハーマイオニーもふんふんと話に参加してくれた。
話していたらマジで日本食が食べたくて堪らなくなってしまった…。
「せめて、食材があればな。自分で作るのに……」
切ない溜め息をつきながらそう話すとロンったら驚いてるよ。なんで?
「レイ、自分で作るの?」
「当たり前じゃんか。料理ぐらい作れるよ〜。この間、お菓子あげたろ?」
私がそういうとロンがそういえばって顔をしている。
私、元女(?)ですからね?
ああ……日本食が恋しい……。
私はそんなことを大広間で話していたのだけど…まさか、聞いている人がいたとは。
もお、ホントに甘やかしすぎだってば!
*****
その日の昼食のことだった。私達が授業を終え、大広間で食事を摂っていると、バッサバッサと羽を広げてものっそい大荷物をしょったふくろう便がやってきたのだ。
なんだあれ?凄い大荷物だけど。皆が大注目の中、そのふくろう便はどんどん近づいてくるではないですか、私に向かって。
驚きで固まる私の目の前に、ふくろう便は乱暴に荷物をドカンと下ろすと去っていったのでありました。
だから乱暴だってば!中身割れ物だったどうするんだっての。
手紙がついていたので開けてみる。手紙はおじいちゃんからだった。
私はその手紙を読んで思わずのけぞってしまった。おじいちゃん、やりすぎだから…。
To 我が愛しい孫のレイへ☆
朝食の話を聞いたぞい!日本食が食べたいのじゃな?ワシに任せなさい!レイは料理も得意だと聞いておるのでな、材料を揃えておいたぞ。
以前使っていた部屋にはキッチンがあったはずじゃから、そこで料理を作ると良いじゃろう。本日放課後、スネイプ教授に付き添ってもらうよう、話はつけてあるぞぃ☆
From おじいちゃんより♪
そして放課後。眉間にものっそいシワを寄せた教授が私の元居住部屋にいらっしゃるのでした。
はは、教授ったら機嫌悪い。またおじいちゃんにいいように言いくるめられたんだろう。ごめんね、教授。
「何故我輩が立ち会わねばならぬのだ?校長は一体何を考えているのだ…!!」
不機嫌な教授。まあ、それはごもっともですが…。
なーんかおじいちゃんって妖しいんだよなぁ…もしかして私達の関係に気づいているのかも?
ま、まさかねぇ?私は慌ててその考えを振り払うと、教授に向かって言った。
「ごめんなさい、セブルス。僕が大広間で日本食が食べたいなんて言うからこんなことになって……。でもこんなに食材をもらっちゃったし、勿体無いからせっかくだし作ろうと思うんです。もちろん良かったらセブルスも召し上がってください。だめですか…?」
おずおずと上目遣いでお願いすると、教授ったら口に手を当てて横を向いてしまった。
?教授?どうしたのかな?
教授は咳払いをすると言った。
「よ…かろう…我輩も手伝おうではないか。何もしないのは気が引ける…」
そんなのいいのに。教授ったら袖を少し捲くってるよ。やる気ですね?教授。
「それじゃあ、下ごしらえとか、手伝ってもらおうかな?」
私はそう教授に言うと、荷物に一緒に入っていたエプロンをつけて準備をした。
とたんにのけ反る教授どうしたの?
「な……!レイ、なんというエプロンをしているのだ!」
教授ったら慌ててるよ。どうして?
「へ?だってこれもおじいちゃんから貰ったから……服を汚さない為にしてるんだけど、変ですか?」
白いエプロンにフリフリのフリルがついているので、確かに男の子がつけるには不向きかもしれないけど…汚れるよりはいいだろうと思ったんだけど。
「い、いや…変というわけではないが…その……」
教授ったら珍しい!どもってるよ?どうしたんだろう?私がじーっと教授を見つめると慌てたように言ってきた。
「さ、さあ…料理を作るのではなかったのかね?早く指示を出せ…」
変な教授……まあ、いいけど。
私は食材をざっと見て、今日作れそうな物を考えてみた。
典型的なものとしては肉じゃがとかつくれそう…。それと野菜もいっぱいあるから、天ぷらとかもいいね!あとはご飯とお味噌汁にしよう!よし、それに決めた!
「じゃあ今日のメニューは、肉じゃがと天ぷらにしますので……セブルス、野菜を切ってください」
そう言ってジャガイモと人参を渡した。。
「とりあえず皮をむいてくださいね…僕はまず米をといでおきますので…」
私はそう言って米をとぎだした。教授は野菜を洗っている。なんか、変な感じ…これってばなんか、なんか……新婚さんみたいじゃないか…。照れるなぁ…。
そんなことを思いながら米をといで水にさらす。今日は時間がないからそのまま炊こう。続いて味噌汁のだしをとるために鍋を火にかける。
教授、大丈夫かな?まぁ調合でいつも色んな物を刻んでるから、手先は器用なんだろうと思ってふと教授を見ると……ぎゃー!何やってんの、教授ってば!
「セブルス何やってんですか!そんなんじゃジャガイモがなくなっちゃうってば……」
教授ってば皮を厚くむいちゃってジャガイモが小さくなってしまってるではないですか!それに手つきが非常に危険だった。
「何故だ?こうやって剥くのではないのか…?」
不思議そうな教授。ひょっとして…料理とかしたことないの、かも…。
「セブルス…ひょっとして料理したことない…とか…」
おそるおそる聞いてみると教授は頷いた。
「料理はしもべ妖精がするのでな……我輩は初めてだ…」
そんな堂々と言うなっての!もお、そんなに剥いちゃったら食べる所無くなっちゃうでしょうが。私は溜め息をつくと教授へ言った。
「セブルスは…座って待ってて?ほら、本とか読んで待っててよ…ね?すぐに美味しい料理を作るからさ」
ね?って感じで教授から包丁と野菜を取り上げる。危ないよ教授には料理させらんないな。
教授は素直に頷いて椅子へ座ると持ってきた本を読み出した。
はぁ〜良かった。さ、料理を作ろう……。私は腕まくりをして料理に取りかかったのでした。
肉じゃがが完成、というか後は煮込むだけになったので、次は天ぷらに取り掛かろうとしていたその時、後ろに人の気配を感じて、私は振り返った。って教授?どうしたの?
「あれ?セブルスどうしたんです?ひょっとしてお腹すいた?」
私が尋ねると教授はつぶやいた。
「…もう…我輩はぺこぺこだ……」
え?まだ料理できてないんだけど。
「セブルス、ごめんね、まだ料理できてないんだよね…あともうちょっと煮込めば終わるんだけど…まだ他にも作るし…」
もうちょっと待っててね?私はそう言って天ぷらのために野菜を切りだしたのだけど…突然、本当に突然教授が抱きしめてきたのだ。
え?ど、どうしたの教授ってば……。
「セブ、ルス、どうしたの?僕料理してるから、包丁持ってるし危ないんだってば……」
何とかそう言うと教授は私の耳元で囁いてきた。
「我輩はもう待てぬ……頂いてもかまいませんな…?」
って教授、まだ料理煮えてませんが……。
私はドキドキしながら、
「だってまだ出来てないよ…まだだってば…」
そう言うと教授ってばクスリと笑って、
「そっちではない…。我輩は欲しいのはこっちだ……レイ…」
そう言うと私のうなじにキスをしてきたのだ。
「はぁん…や…だめだってばぁ……まだ…料理の途中なんだからあ…ああん!…危ないって…僕、包丁持ってるって……はん!…ねえ、セブルス…ちょっと待って……んんっ!…」
私が何とか阻止しようとして説得しようとしてるのに、教授ったらシャツのボタンを外して私の素肌に触れてきた。
ああ…そんなことしちゃ…だめ……。料理作れなくなっちゃうよ……。
「レイ…我輩が欲しいのはお前だ……お前を味わいたい……」
そんなこと、言わないでよ…そんな、こと…。そんな事言ったら……。
私は包丁を置くと、教授を見つめた……とたんに教授からキスされる。
甘いキスだった。教授ったら、もお、エッチなんだから…。
思わず私もキスを返す。教授は私を引き寄せると、キスはもっと深くなった。
ああ………もお、これじゃあ料理どころではないよ。教授は私の首筋に舌を這わせてくる…。ああ…こんなことしてる場合じゃないでしょ……。
料理じゃなくて、教授は私の身体に火を付けてしまったみたい。
もうこうなったら教授は止まってくれないだろう。私だって、もう止められないもの。
私は片手で教授に縋りつきながら、反対の手で肉じゃがの火を弱火にした。
もう……教授ったら、私が一生懸命に愛情手料理を作ろうとしてるのに。
私の手料理よりも、私が食べたいなんて……よくそんな事が言えるよ……。
教授は私を抱き上げ、ベッドへと向かう。私はこれから起こることに胸を高鳴らせながら、反面、教授のニヤリとした顔を見るととっても心配になってしまった。
肉じゃがの火…消したほうがよかったかも、ね…?
(白いフリルのエプロンは反則であろう…!)
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