短編 | ナノ


▼ 夢中にさせて


はぁ、どうしてこんなことに…。
どうして、私がこんな目に遭わなけりゃならないの〜!



その日、私は放課後スネイプ教授に質問をしに行った。
最近は授業以外でなかなか会う機会がなくって、寂しいのもある。でもあんまりまとわりついてうざがられるのも困るし…。嫌われたくないもん。この辺の兼ね合いが難しい所ですよね?皆さん。

こういった恋の駆け引きはよく解らない。
だって好きな人には毎日会いたいし、その声を聞きたい、顔を見たいって思うでしょ?
好きな人の側にはずっといたいと思うものだよね?

でも私達って教師と生徒だし。
おまけにもっとまずいことに今私の体は男だから同性だし。

もし私達が恋人同士だなんてばれたらそれこそ大変なスキャンダルになるだろう。現職の教師が男子生徒と付き合っているなど、許されるはずが無いよね。
まあ、よりによってスネイプ教授がそんなことをするなんて誰も思わないと思うけど。
あと、教授に確認したことはないけど、私は男の体なのに嫌じゃないんだろうか?
教授の行動や言動を見ていると全く気にしていないようにも見える。年の功で隠しているだけかも知れないけど。

ま、そんなこと考えてもしょうがないか。
私は溜め息をつくと教授の部屋に向かった。
教授のいる地下室へ続く廊下はいつものように誰もいない。ははは、みごとに避けられてるよね、教授ってば。まあ、そういう状況だからこそ私が会いに行けるってもんですが。
教科書を腕に抱えながら教授の部屋へ急いでいたその時。
私の歩いていた、まさに足元から突然ドカーンという大きな轟音と共に何かが弾けたのだ!

『きゃあ〜!何?何が起こったの〜?』

もくもくと煙が上がる。右も左も解らない。
私は派手に転んでしまった。うう、足を打ったみたいだ。自分の体が大丈夫かあちこち触ってみる…右足がちょっと痛いけど大丈夫だろう。動くし。両手と左足、他も大丈夫そう。ただし、全身に何かの液体を浴びたようですけど…。
これ、何なの?誰かのいたずら?だったら許せん!!
私が静かに怒りに震えていると、

「やった〜!ついにかかったぞ!やったな!フレッド!」

「ああ!やっとスネイプを罠にかけることに成功したな!ジョージ!」

物陰から双子が出てきたではないですか!おのれ〜お前らか犯人は〜!!
私は杖を構えると呪文を唱えた。

「インカースレイタス!」

すると空中に縄が現れ双子を縛り付けた。

「「うわっ!」」

双子はその時になって初めて自分達がかけた罠に嵌った相手が教授じゃないことに気づいたらしい。遅すぎだっちゅうの!

「レイじゃないか!何でこんな所に……っていうかもしかして君がかかった?」

フレッドが目を見開いて聞いてきた。

「そうだよ!どうしてくれるんだ!制服をこんなに汚して…」

そうなのだ。制服に何かを浴びたみたいなんだけど、ピンク色の液体なのだ。これじゃあこの制服もう着れないよ。

「やあ、レイじゃないか!僕達の新作に引っかかるなんて、君はついてる!それはね、“甘い甘い蕩ける薬”でさ…」

ジョージが縛られてるっていうのにニコニコ顔でいたずら薬の解説をしてくる。
はぁ、こいつら馬鹿じゃないのか。私が溜め息をついたときだった。

「…我輩の部屋の前で何をしているのかね?」

後ろを振り返ると……あ、スネイプ教授がいらっしゃいましたよ。
教授ったら眉間に凄いシワ。ものっそい不機嫌だ。まあ、自分の部屋の前でこんなに大騒ぎされちゃあ、機嫌も悪くなるってもんですよね。

「あ、教授、これはですね…」

私がかいまつんでさっき起こった事を教授に伝えた。ははは、教授ったらさらに不機嫌になってしまった…。

「グリフィンドール20点減点!お前達は何をやっているのだ!一歩間違えればMr,カンザキは大怪我をしたかもしれぬのだぞ!少しは反省したまえ!」

教授の怒鳴り声が廊下に響く。双子は顔を見合わせていた。いや、教授が浴びる所だったからね。怒るならそっちの方かと思うよね?

「でもスネイプ教授この薬は怪我をするとかの薬じゃなくってですね…」

「僕達の新製品の薬について説明させてくださいよ…」

双子が一斉に話し出した。
私は怒りと寒さもあってまただんだんと腹が立ってきた。
どうして私がこんな目に遭わなきゃならないの?これから教授と一緒の楽しい時間を過ごそうと思ったのに台無し!
も〜頭にきた!
私は杖を構えると二人に対して爆風呪文を唱えた!
ちゅどーん!という音がして双子は縄で縛られたまま彼方へ飛んでいった。
ふん!思い知れ!あの呪文は音は派手だけど怪我とかはしていないはずだ。吹っ飛ばされた時に腰くらい打つかも知れないけど知ったことかっての!

「ふん!いい気味!」

私が杖を構えてプリプリ怒ってるのがそんなにおかしいんだろうか?教授ってばクックッと笑ってる。

「レイ、我輩の部屋でシャワーを浴びてゆくがよい」

教授が提案してくれた。ホント?それは助かる〜!

「ホント?嬉しいかも…何か、べたべたするんですよね」

教授に促され、私は教授の部屋に入っていった。
まったく、酷い目に遭った…。やれやれと思っていたんだけど…。


私が本当の意味で酷い目に遭うのはなんとこれからだったのです。
くっそ〜あの双子、許すまじ!!




*****




教授の部屋に入ると寝室の奥に案内された。
前にも使わせてもらったことがあるから勝手は知っている。教授にバスタオルを受け取ると教授は隣の部屋に行ってくれた。
ホント、全身にあのピンクの薬を浴びてしまったのでベタベタだ。
私は、制服を脱ぎながらネクタイを外そうとしたんだけど、ヌルッっとした感触があって一瞬の後にぶちって音が…。

へ?ぶちって音が…?何故?

変だな?そう思ってネクタイを見ると…、


ネクタイがちぎれております。


は?なんでちぎれるんだ?そんなに力は入れていないはず…。
その時になって私は嫌な予感がした。あの双子が言ってた。“新製品”、“甘い甘い蕩けるなんとか”って。
ってことは制服が蕩ける…もとい溶けるってことか?
やば!明日から着て行く制服がないじゃんか。そう思って急いでブレザーとか、ズボンを改めて見てみるが…はは、穴が開いたり、既に溶けたりしてるよ。

『わーどうしよう!!どうすんの!明日から着て行く服がないじゃんか!!』

私が大声で叫んだのが聞こえたのだろう、教授がすごい速さでバスルームにやって来た。

「レイ、どうしたのだね?…んな!なんという格好をしているのだ!」

教授、驚くとこはそこじゃないから!

「わーん!セブルスどうしたらいいんですか〜!制服が、制服が溶けちゃうよ〜!」

私は必死で教授に訴えた。
教授ってば半裸の私を見ないように手で目を覆ってたんだけど、その時になって初めて私が言っている言葉が理解できたらしい。

「な!制服が溶けておるだと?見せたまえ!」

教授はそう言うと、私を見ないようにして制服をひったくった。その衝撃で制服がさらに破ける…。

「……………破けたな」

「……………ええ、破けましたね」

教授は溜め息をついて杖を構えるとなにやら呪文を唱えていたが、何の効果もなかった。
そんなことをしているうちに制服はどんどん溶けていき、ついに何もなくなってしまった。
ちなみに下着までびしょ濡れだったので、私が今日身につけていたものはすべて溶けてしまったということになる。


どうすんのこの状況…。


教授は頭を抱えていた。
私だって泣きたい。明日から制服もなしにどうやって学校生活を送れっていうの。
替えの制服はない。あんまりおじいちゃんにお金を使わせるのも、と思って遠慮したのだ。まさかこんな事態に陥るなんて思っていなかったし。
私は溜め息をついた。とたんにくしゃみが出る。さ、寒い…。
教授はなんとか衝撃から立ち直ったようだった。

「……レイ、とりあえずシャワーを浴びたまえ、このままでは風邪を引く……着替えの服は我輩が何とかしよう…」

教授はそう言うとバスルームを後にした。はぁ、どうしよう……。
私はしばらくその場所に佇んでいたが、どうしようもないのでとりあえずシャワーを浴びることにしたのだった。
もー、今日は厄日かなんかなんだろうか。


イギリスには深い浴槽はないから、首までゆっくりとお湯に浸かれない。もともとそういう習慣がある国じゃないし。
仕方ないのでシャワーを流し続けた。全身ベトベトだったのできれいに洗った。
頭まで薬を浴びたので頭を洗うのが大変だった。何か物凄いゴワゴワする。あの双子、薬に何混ぜたんだ?

やっとシャワーを終えると、シンプルな白いYシャツが置いてあった。
そうだよね、しょうがないよね。こんな物くらいしかないだろう。教授ってジャージとかTシャツとか、短パンとかそういった物は着なそうだし。下着だって教授のサイズとは全く違うから合わない。っていうか教授の下着なんて着れないよ、恥ずかしくって。

手早く体を拭くと、Yシャツを着る。以前にYシャツを借りたことがあるけど、あの時はサイズを合わせてもらったっけ。でも今はそんなことをしたら下半身まるだしになってしまうからこれでいいのか…。
はぁ〜…これって、この格好ってなんか、情事の前みたいなんですけど。ほら、よく小説とかにあるじゃんか。下着だって穿いてないし。

なんちゅうことを考えてるんだよ私ってば。腐女子的妄想しすぎだってば。教授にはそんなつもりはないよきっと。私は速攻で否定した。
袖が物凄い長かったので、袖だけは捲くった。
ああ、何か恥ずかしい…この格好で教授の前に出ることに凄く抵抗がある。
もう、本当に何て日だろ。


「セブ、ルス…シャツ、あり、がとうごさいます…」

なんか恥ずかしくってどもってしまった。教授の顔をまともにみることができない。恥ずかしくって。
教授から何故か返事がない…ど、どうしたのかな…。
勇気を出して教授を見てみると、教授ってば、目を見開いて固まってるよ。そして一瞬の後に首までピンク色になってしまった。

え?…そんなに刺激的だった?
お互いにあからさまに目を逸らす。これって、やばいかも。こんな格好で教授の前にずっといるなんて、狼に餌を目の前にしておあずけさせてるようなもんだろう。ごめん、教授。
それにこんな格好じゃ、寮の部屋に戻れないよ。本当にどうしよう。私がそう考えていると、教授がコホン、と咳をして杖を振った。
とたんにテーブルに紅茶がセットされる。

「レイ、体が冷えてはいかん。紅茶を飲みたまえ…」

教授、なんか声がいつもよりセクシーな気がしますが…気のせいですよねそうですよね?

「あ…セブルス…ありがとうございます」

私は何となくギクシャクしながら、ソファーに座った。ああ、もう。いくらサイズがでかいからって、座ったら大事な所が見えそうになるみたい。ど、どうしよう…。私は仕方がないので、せめて見えないように両足を閉じて足を斜めに揃えた。女の子みたいだ。

紅茶を飲む。あったかい…。
沈黙が、怖いんですが…。何か、初めて会った頃のよう。その時よりもこの空間は何倍もの緊張感がありますが。
教授が暖炉に火を入れてくれたみたいで、珍しくこの部屋は暖かかった。教授が気をつかってくれたんだろう。ありがとう、教授。
教授がまたコホンと咳払いをした。

「レイ、制服の件だが…。明日は学校も休日ゆえ、ダイアゴン横丁へ行ってもう一度マダム・マルキンに採寸して制服をつくってもらわねばなるまい。我輩も同行しよう」

と言ってくれた。あ、そうか明日は休みか。良かったよ。
教授はさらに続けた。

「そして、本日のこれからのこと…だが…。夜になるまで、この部屋を出ぬほうが良い。我輩が寮の部屋まで洋服を取りに行こうかとも考えたのだが、噂になっても困る。夜まで待って、こっそりと寮に戻るのがよかろうと思ったのだが…。それで良いかね?」

「も、もちろんです。セブルス色々とありがとうございます、そうさせてください……」

私がうつむきながらそう返事をすると、教授が、

「わかった。それでは夜まではこの部屋にいたまえ…」

そう言うと教授は机に向かって書き物を始めた。部屋に漂う緊張感は持続したままだ。
はぁ、もうどうしよう。教授と楽しく過ごすはずだったのに。これじゃあ楽しくなんてないよ。緊張感に押しつぶされそうだ。私はそっと溜め息をついた。


教授が書き物に集中しだしたようで、部屋に漂う異様な緊張感が少し緩んできたかなあ、という頃。
ふと、自分の足を見ると、転んだ時に怪我をしていたことがわかった。右足を擦りむいていたみたい。結構な長さだ。触れてみると以外と痛かった。

「あ、痛ったぁ〜…」

思わずつぶやいてしまった。すると私の言葉を聞いた教授が羽ペンを放り出し私の所にやって来た。凄い速さだった。

「レイ!どうしたのだ…」

「あ、大したことは無いんですけど、転んだ時に怪我をしたみたいで…」

私がそう言って右足を見せようとしたときだった。


教授が、ぴきーんと固まった。そして一点を見つめている。


はれ?どうしたのかな?丁度私の膝辺り……教授の視線をたどるとそこには…。
シャツから下半身が見えそうになってるじゃんかぁ〜!!
やばい、やばいよ!私は慌てて膝を閉じ、両手で押さえた。

「わあごめんなさい!このシャツ思ったより短くて……」

私は恥ずかしさで自分の頬が赤くなるのを感じた。
教授がゴクリと喉を鳴らすのがわかった。も、もしかしてかなり教授を刺激しちゃった、かも?
そうだよ!さっき体を拭いたタオルでも何でもいいから、膝にかけておけばいいじゃんか!教授のローブを借りてもいいし。
私は教授にお願いしようと思って、教授の方を向いた。

思えば、それがいけなかった。

教授ってば、目つきがもう尋常じゃないですよ。ま、まさかまたスイッチを入れてしまったのでは…私の馬鹿〜!
私は教授から目を逸らせなくなってしまった。

「レイ、傷の手当をせねばなるまい…」

教授はそう言うと、

「…足を、出したまえ」

と言ってきた。そ、そんな〜!そんなことをしたら、シャツの中が丸見えになっちゃう。
私は恥ずかしさのあまり、遠慮することにした。

「大丈夫です、かすり傷ですから…」

そう言ってなんとか回避しようとしたんだけど。教授は返事もせずに私の右足の近くまで来て、無言で右足を持ち上げたのだ。

「きゃっ!セブルス、何するんですか…」

は、恥ずかしい〜きっと丸見えになってる…。教授と恋人同士になってから、もっときわどいこともされてるけど、これはこれで恥ずかしいよ…。
教授は足の傷に触れ、観察していたようだけど、突然、足の傷にぬめったような感触が…って教授何してんですか!
教授ったら、傷口を舐めてるのだ。そして、その舌使いがものっそエロイ。

「ああん……そんなこと…しちゃ…いや…」

凄く感じてしまう。傷口にキスなんて、指を怪我された時もされたけど、その時よりも凄く感じる…何で?
私は口に手を当てると喘ぎ声が聞こえないようにしようとした。
そうしたら教授ったら私の足に舌を這わせながら、

「我慢するな…もっと可愛い声を聞かせてくれ…」

なんて言ってくるのだ。私を見つめながら…。


そんなこと言わないで。
そんな瞳で見ないで。
そんな声で囁かないで。


私……自分を抑えられない。抑えられなくなっちゃうよ…。

「あ…んんっ…そんなこと…いっちゃ…駄目ぇ…」

喘ぎながらなんとか言葉にする。教授は足先から太ももにかけてキスをしながら聞いてくる。

「何故だ…?」

「だって…だって…我慢できなくなっちゃう…」

「何を我慢しているのだ…?」

「そんなこと…セブが、言ったら…言っちゃうよ……」

「言いたまえ…さあ…」

教授がひときわ激しく敏感な所にキスをしてきた。

「きゃ…!はぁ…あん……もっと…もっとしてよ…って…もっと…夢中に、あ…ん…させてって…ああんっ」

「もっとしてやる…もっとたくさん…」

教授はそう言うと、私を抱き上げ、寝室へと向かう。

教授がキスをしてくる。ああ、とっても素敵……。
私は教授に腕を廻すと、夢中でキスを返した。




夜まではまだまだ長い時間がある。
ついに、言ってしまった禁断の言葉。ああ、私がまた教授を煽っちゃったのかな。
だって、だって、止まらなかったんだもの……。



ねえ、教授。私を夢中にさせて?
私も、あなたを夢中にさせるから…。


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