短編 | ナノ


▼ 風邪を引いた日


その日は何だかいつもと違った。
朝起きると何だか身体がだるい。それに何だか、注意力が散漫なような気がする。
私はおかしいなあと思ったけど鍛錬はしなくちゃ、と思っていつものメニューをこなすことにした。
思えば、それがいけなかったんだよなぁ。


いつものように動きやすい服装に着替えてランニングから始める。
始めてからだんだんと少しずつ距離を延ばしていったので今ではかなりの運動量になった。けっこう汗をかく。
動き出したらだるさがなくなった。何だ、寝不足だったからかな?そう考えて体調が悪かったことを忘れた。
いつものようにウサギ跳びと柔軟体操、腹筋、背筋練習をする。
まだ時間があったので、中庭で呪文の練習もすることにした。今日は風が冷たいな。



朝食の時間になった。私はシャワーを浴びて汗を流すと大広間へ向かった。
いつもならお腹がぺこぺこなのに、何故だか今日に限って食欲がない…。ま、そんな日もあるだろうと思って紅茶だけを注いで飲んでいるといつものメンバーが大広間へやってきた。

「おはよう皆!」

いつもの挨拶を送る。たいてい朝食は私が早くきていることが多い。ロンが朝弱いので起すのが大変なんだよとハリーが愚痴っていたことがあったっけ。
私はロンを見た。ロン、君ったら凄い寝癖だよ?私はクスクスと笑うとロンの髪を撫でた。

「ロンったら、凄い寝癖…芸術の域だね!」

ハーマイオニーもクスクスと笑っている。ロンは赤い顔をしていた。きっと照れてるんだね。
この寝癖なおらないな。私は席を立つと蒸らしたタオルを持ってきた。それをロンの後頭部に当てる。

「うわっ!レイ!何するんだよ?」

あ、驚かせちゃった?私は笑いながら、

「ごめん驚いた?こうやって蒸らしてあげると寝癖は落ち着くんだよ?まあ、騙されたと思ってやってみてよ」

そう言うと私はロンの腕を叩いた。
ロンったら温泉に浸かった人みたいになってる。かわいいな。私は席を立つと授業が始まるまで図書室へ行くことにした。

「皆まだ食事するだろ?僕はもう済んだから図書室へ行ってから授業へ向かうことにするよ」

そう伝えて大広間を後にする。



図書室へ行くと誰も居なかった。当たり前か。こんな時間だもんね。司書のマダムもいなかった。私は適当な本を探すと席に座り読み始めた。
身体のだるさがまた出てきた。本格的に寝不足なんだ。少し鍛錬を休んだほうがいいかもしれないな、そんなことを考えながら本を読んでいるんだけど、まったく集中できない。だめだこりゃ。

私は席を立つと授業に向かうことにした。ここにずっといても時間の無駄だとわかったから。それに何だかここって寒いし。人が誰もいないからかなあ。
ホグワーツの廊下を歩いていると珍しく誰にも会わなかった。まだ授業には早いからだろうか。
歩いていると不思議なことが起こった。地面が揺れてる…?これって地震かなにかだろうか?立ち止まってみる。すると揺れてはいない。ってことはひょっとして私の身体がおかしい?

このときになって初めて自分の体調がおかしかったことに気づいた。

ひょっとして風邪を引いた、とか?
でもでも、これからの授業は魔法薬学だ。大好きな教授の授業は絶対に受けたい。
それじゃなくっても最近会える機会が減っているのだ。教授の顔が見たい。
この授業が終わったら医務室へ行こう。うんそうしよう少しならきっと我慢できると思うし。私は一人でうなづくと魔法薬学の教室へと向かった。
ああ、私って恋する乙女。由香里だったら、

「あんた馬鹿じゃないの?周りの迷惑考えなよ!」

って言われたろうな。ほーんと教授のことになると見境がなくなってしまうよね私ってば。でも、それが愛よね!
間違いなく由香里からマッハでつっこみが来そうだな。でも彼女は今ここいは居ない。
誰にもつっこんでもらえない寂しさを感じながら、私は魔法薬学の教室へと向かったのだった。




私は自分の甘さに溜め息をついた。

教授には会いたいと思った。実際会えて嬉しかったし。教授がどんだけグリフィンドールから減点しようが、ネビルが薬草を燃やしちゃおうが、教授の眉間にシワがよってようが、私は幸せだった。がしかし、私は大きな誤算をしていたのだ。

この教室ってばものっそ寒い。

だってここってば地下室…寒いの当たり前。
私ってやっぱり馬鹿かも。このままでは確実に風邪を悪化させてしまうだろう。何だか息遣いが荒くなってきたみたい。目も霞んで来た。はははは…マジで洒落にならん。
それでも私は必死になって鍋を掻き混ぜ、薬草を切り、薬を調合したのだった。
教授は不機嫌そうな顔をしていたけど。教授、今日くらいは刻み方が乱暴でも許してくださいよ。
何とか頑張って調合を終えて薬を提出する。
は〜良かった無事に終わったよ。いつネビルのように釜を爆発させるかと冷や冷やしていたのだ。
教科書を抱えると医務室へと向かおうとしたその時。

「Mr,カンザキは残りたまえ」

教授が珍しく私を指名してきた。そんなにあの刻み方が雑だったかな。体調が悪い割にはまあまあの出来だと思うけど。
ハリーが同情の目で見ている。ははは、心配御無用だよ。私は安心させるようにちょっと笑うと教授の所へ向かった。
皆が教室から出て行くと教授は私を見つめて言ってきた。

「今日のお前はどうしたのだ。まったく集中できていなかったようだが。調合も酷いものだった…あれでは薬の効果が1/5以下になってしまうであろう」

そんなに薬の効果って調合の仕方によって変わるんだ。不思議。私は教授の説教を聞きながら立っていたけど、ふいにまた床が揺れだした。あ、また眩暈かな…?
教授をじっとみつめる。

「……どうしたのだ?そのような顔をして」

教授が戸惑った顔をしている。どうしたの?

「ここは教室だ。そのように誘う顔をしてはいけない…

教授はそう言うと私の顔に手を伸ばしてきた。いや、誘ってませんから!教授ってば朝から何言ってるんだよ。
私が反論しようとした時、教授は私の頬に触れてきた。とたんに驚く教授。

「レイ!お前、熱があるではないか!何故隠していたのだ……」

教授が何か言っているようだけど、何だかふわふわしてきた。な〜んかすっごい気持ちいい。
私は教授にふふふ、と笑いかけると教授の手をとってその甲にキスをした。
今考えてみれば随分と大胆なことをしたもんだと思うけど、この時は何だか衝動に突き動かされたっていうか…。教授は、驚きに声も出ない。

「きょ〜じゅ、あのね…あなたに会いたかったの……」

私はそう言うと教授の手を頬に押し当ててすりすりした。教授ってばさらにうろたえてるよ。

「レイ、ここは教室ゆえ、そのようなことをすべきではない」

「ど〜して?こんなに好きなのに……」

私はそう言うとふらつく身体で教授の側まで行った。教授ったら固まってるよ。いっつももっとヤラシイことを私にするくせに。私から迫ると面白いくらいうろたえるよね。
もう、可愛いんだから、教授ってば。
私はクスクスと笑うと教授にキスをした。教授の目を覗き込む…凄い綺麗。真っ黒な瞳に見入ってしまいそうだ。

「あのね…きょ〜じゅ…ぼく、は……」

それが限界だったみたい。私は意識を失ってしまったのだった。
教授の腕の中で…。




*****




今日のレイはいつもと違った。
我輩の授業を上の空で聞いている。調合をする手つきも酷いものであった。よく手を怪我しないものだ。我輩はハラハラしてしまった。
やっと怪我なく調合が終わって薬を提出する頃には、レイの提出した薬は違った色合いになってしまっていた。これでは点をやれぬ。
どうしたのであろう、このようなことは今までなかった。我輩は心配になった。それに、レイの心を上の空にしている原因に嫉妬までしてしまう始末。これでは末期だな。
我輩は他の生徒の調合を監督しながら溜め息をついた。生徒は青い顔をして調合しておったが、お前のことではないぞ。安心したまえ。




我輩はレイに残るように言うと、上の空の原因を聞きだそうと試みた。
すると潤んだような目で我輩を見てくるではないか!こんなところでそんな顔をしてはいけない。我輩は抑えられそうもなくなってしまう。お前に触れたいという気持ちを…。
耐え切れず頬に触れたとたん、我輩は驚愕した。レイ、熱があるではないか!
体調が悪いならそう言えばいいものを。何故隠していたのだ、我輩はそんなに頼りないのであろうか。

そんな気持ちを込めて言ったのに、あやつはクスクスと笑うと我輩の手に頬ずりしたり、キスをしたりしてきた。
いつもとまったく違う積極的なレイに我輩はすっかり戸惑ってしまった。おそらく熱のせいでこのような行動をしているのであろうが…ほかの輩にはしていないだろうな?
戸惑いと驚きで固まっているとふいにレイが我輩の元へ倒れこんできおった。
高熱で意識を失ったか。
我輩は溜め息をつくとレイを抱えあげた。医務室へ連れてゆかねばなるまい。




医務室へ担ぎ込むとマダムに急患だと伝えてベットへ寝かせた。レイは荒い息をしておりかなりの熱があった。
大方ちょっとした風邪だから大丈夫だと高をくくっていたのであろう。体調管理がなっておらんぞ。
マダムの薬を飲ませ、額を濡れタオルで冷やす。
レイの寝顔を見ていると苦しそうで、我輩はいてもたってもおれないような気分になった。

できることなら我輩が変わってやりたい。この苦しみから救ってやりたいと思った。思わずレイの頭を撫でた。
このような感情を持つようになるとは、まったく人生とは不思議なものだ。一度は生きることを諦めようとまで思っていた時期もあったのに。昔はただ罪を償う為に生きようと思っていた。我輩の残りの生はそのためだけにあると思っていた。

そう、思っていたのに…。


レイがやってきてから全てが変わってしまった。昔は惜しいものなどはなかった。我輩のこの命でさえ…。
それがどうだ。今はこのような感情を持て余し、レイの行動、言動1つにこうまで踊らされる。苦しんでいたら、助けてやりたい、何とかしてやりたいと思ってしまう。我輩には怖いものなどなかった。あのヴォルデモートでさえも恐るるに足らぬ。そう思っていたのだ。

しかし今はレイのことを思うと、どうにもならぬ。レイによって我輩の人生は輝きを取り戻したかのようにみえるが、反面失う恐怖に怯える。
レイを失ったらと思うと、二度と生きては行けぬような気になってしまう。
そのような事を、耐えられるはずがない。


これが、愛というものなのか?人を愛するということなのか?


レイの寝顔を見つめる。先ほどよりは息遣いが緩やかになってきた。おそらく薬の効果が出始めたのであろう。我輩は安心した。
レイの頭を撫でながら、我輩はまた溜め息をついた。




目が覚めると私はベットに寝かされていた。あれ?教授と話していたはずなのにどーして?
私が起き上がると額から何かが落ちた…あれ?濡れタオルだ。
ってことはここは医務室?
カツカツと軽快な音が聞こえてカーテンがシャーッと開けられる。

「レイ起きましたか?気分はどうです?」

マダムポンプリーだ。私は自分の身体を見回し、制服を着ていないことに気づいた。あれ?いつの間に着替えたんだ?

「すみませんマダム。体調はいいみたいです。少しだるいですが…」

私がそう言うとマダムはそうでしょう、とうなずいた。あ、授業に遅れちゃう!

「マダム次の授業に遅れますから…次は変身術だったかな?」

私がそういうとマダムは呆れた!という顔をしていたが、

「レイ、あなたは何日寝込んでいたと思うのですか!3日ですよ?3日も寝込んでいたのですよ?」

と言っていた。
うえええ?3日も?そんなに風邪をこじらせたんだ。はは、完全に体調管理が悪かったんだな。トレーニングの後にシャワーに入ったり、その後に寒い部屋に居たりしたから。やっぱり私って馬鹿かも。
マダムはきっぱりと言った。

「今日はもう一日安静にしていただきますよ!嫌とは言わせませんからね!スネイプ教授からもそのように言いつかってますからね!」

そう言うとマダムは去っていった。


…教授が?




私はその後スネイプ教授にたっぷりとお説教をくらい、補習をうけることになってしまうのでした。
ううう、教授、怖いです〜。

心配させちゃったんだ。ごめんね教授…。




(お前を失うなど、我輩には耐えられん…:教授)


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