短編 | ナノ


▼ 愛しいひとよ

ふとした瞬間に思い出す。
それは授業中であったり、もしくはレポートの採点中であったり、食事中であったりと様々。
そうして我輩の行動を不振にさせ、物事は手につかなくなってしまう始末。
こんなにも心を騒がせる、この甘い痛みは。

これが…恋なのか。



我輩はセブルス・スネイプ教授、ホグワーツで魔法薬学を教えておる。

はっきり言うと生徒には好かれておらぬ。それは分かっている。もとより好かれようとは思ってはおらんからな。生徒もよっぽどのことがないかぎり我輩の元へは来ない。
それは我輩が寮監を勤めておるスリザリンの生徒であっても同様である。
我輩はそんな毎日に特別不満は感じていなかった。むしろ纏わりつかれるのは我輩の望む所ではない。

そう、思っていたのに。

あやつがやってきて以来、我輩の気持ちに変化が訪れた。
なぜかあやつは皆が嫌っている我輩のことを慕い、よく部屋に遊びに来る。寮だってグルフィンドールであるのに…。
我が寮とグリフィンドールは長い間犬猿の仲である。我輩もグリフィンドールには厳しい姿勢で臨んでおるゆえ、グリフィンドールからは特別に嫌われているという自覚がある。
それなのにあやつはそんな間柄をいともたやすく跳び超えてきおった。そして我輩に対して笑いかけるのだ。


我輩が気まぐれで淹れてやる紅茶をとても美味しいと言う。
我輩が薬を煎じてやると丁寧にお礼を言ってくる。日本の作法なのであろう、きちんとお辞儀をつけて。
我輩が怪我をしたことを見破り、毎日手当てをしてくれる…我輩は明らかに歓迎していないというオーラを出しているのに、全くひるむそぶりがない。我輩の足を治療したとしても何の利益にもならぬのに。
そして我輩のことが心配だと言うのだ。


そのようなことを言ってくれる人は、遥か昔に死んでしまった。もう、そのような事を言ってくれる人が我輩にできるとは思ってもいなかった。まったくのふいうちであった。
我輩はどんどん惹かれていった。もはや制御できぬくらいに。
レイ、お前に…。


年齢だって離れている。性別だって同じだ。
我輩が恋愛対象になるなどという甘い考えを持ってはいけない。持ってはいけないのに。
レイがふと我輩に対して微笑んだり、その声を聞くとたまらない気持ちになる。

授業中は何とか威厳を保ち教師の仮面を被っていても、大広間でレイ、お前を探してしまう。少しでも、見ていたい、見つめていたいなどと考えてしまう。
そして、ポッター達と食事をしながら楽しそうに笑っている姿を見ると、嬉しい反面、切ない気持ちになるのだ。


そのような笑顔を、他の輩に見せないで欲しい。
お前が見るのは、我輩だけでよい。我輩だけに、笑いかけてくれたら…。
そのような報われない気持ちを抱えて、食べたくもない食事を機械的に口へ運ぶ。
決して言うことがかなわない思いを抱えながら…。




我輩は物思いからふと我に返った。
レポートの添削をしながら少し休憩しようと思っていたのだか、思いのほか長い休憩になってしまった。懐かしい気持ちになる。
そのようなことを思い出したのは、偶然ではない。今、我輩の部屋には、レイがいるからだ。

授業の解らない所を教えて欲しいと言って教科書を持ってきたレイは、我輩の仕事がひと段落するのを待っていた間に眠ってしまったようだ。ソファーにもたれて何とも気持ち良さそうに眠っておる。我輩は席を立つとレイの側へ向かった。

すやすやと眠っているレイを見ていると愛しさが溢れてくる。と同時に我輩の側でこんなにも無防備に振舞うレイを恨めしく思う気持ちもある。


レイ、お前と二人きりの時、我輩がどれほど自制心を総動員しているか、お前は解っているのかね?
我輩は溜め息をついた。


レイが我輩と同じ気持ちであると解った時の喜びは、今まで経験したどの瞬間よりも幸福な瞬間であった。一瞬夢かと思ったほどだ。
しかし、夢ではなかった。レイは我輩だけに微笑み、大好きだと言ってくれる。

我輩が抑えきれずキスをすると、恥じらいながらもおずおずと応えてくれるようになった。なんという幸福なのであろう。
我輩は愛しさのあまり、レイの頭を撫でる。
レイはもぞもぞとしていたがふいに我輩に擦り寄ってきた。起きたのか?

「ん……セブ…だいすき…」

レイはそうつぶやくと我輩に抱きついてきた。
だから、我輩を煽るなと言っているだろう…!!

これでも一線を越えないように必死なのだ。どんな苦行よりも厳しく、険しい道のりなのに。
我輩はレイを抱きしめ返しながら自制心、自制心と心の中でつぶやいた。泣く子も黙るセブルス・スネイプ教授がこの様だ。情けない。
情けないが、幸せな瞬間でもある。もう、二度とこのような感情を持つことはないと思っていたのだ。
いつまでもレイとこうしていたい。こうしていたいが…。
そろそろレイを起さなければならない。時間も遅くなってきた。我輩はレイを揺すると、

「レイ、起きたまえ。もう夜も遅い、今日のところは寮へ帰って休むがよかろう」

と言った。
レイはう〜ん、と唸っていたが目を開けた。

「あ、セブルスだ……いい匂〜い。あったかい…だいすき…セブ…」

寝ぼけておるのだな。仕方がない。もう一度揺すって…我輩がそう思った時だ。
急にレイがキスをしてきたのだ。我輩の耳元に。

「せぶ…あいしてる…」

我輩の自制心は脆くも崩れ去った。こんな風に誘惑されてはたまらない。無意識かもしれぬが知ったことか。狼を起こしてしまったお前が悪いのだ。レイ、覚悟したまえ。
我輩はレイを抱えると額にキスをしながら寝室へ向かった。
振動で目を覚ましたのであろう、寝室へ着くとレイはやっと目を覚ましおった。もう遅いぞ。

「あれ…?ここってばセブルスの寝室じゃないですか。なんでここにいるの?えっ?……セブルス、何してんですか〜!どうして服を脱がすんです?僕は質問に来たはず……ああんっ…ちょっと…人の話を聞いてってば…はぁん〜」

制服を脱がし首筋にキスの雨を降らせる。必死で抵抗しているようだか何を言っているのだ?我輩には聞こえませんなぁ。

「レイ、お前が愛しい……」

我輩は耳元で囁いた。レイが我輩の声に弱いのは調査済みなのだ。
とたん、レイの目が潤んできた。顔を赤らめておる。
自分でしておいて言うのも何だが、なんという愛らしさ。我輩の胸はさらに愛しさで溢れ、切ないくらいだ。
レイは恥らいながらも、

「僕も…セブルスが愛しい…です…」

と言ってきた。
そのような台詞を聞いてしまったら、レイよ、我輩は止まらないぞ。
我輩はクスリと笑うと、レイにキスをした…。



どれだけ言葉をならべても、お前への愛しさは言葉に出来ぬ。
どれだけキスをすれば、我輩の思いが伝わるのか…。
お前だけだ、こんなにも我輩の心を揺り動かすのは。


我輩の……愛しいひとよ。


(もー充分伝わってます〜!:レイ)


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