イブ 午前
クリスマス……それは、恋人達のためのイベントといっても過言ではないだろう。
ここ、ホグワーツ魔法魔術学校においても、それは例外ではない。
朝から、ソワソワと落ち着きのない子供達。今年は、クリスマスパーティをすることになったため、生徒達は休暇の間も学校にとどまることになっていた。
まさに、恋人達のためのイベント……シチュエーションは完璧である。
彼女のいる彼氏は、イブの朝から身だしなみに余念がない。
彼氏のいる彼女は、夜に纏うドレスについてや、メイク、アクセサリーについて話し、ダンスパーティの準備に余念がない。
学校全体が、幸せムード全開であった。
しかし……この雰囲気にそぐわない男が一人。
そう、その男とは、魔法薬学教授、セブルス・スネイプである。
彼はいつもの全身黒ずくめの格好であった。眉間のシワは暴君ネロも驚きの数…眼光鋭く、廊下でイチャイチャする生徒を容赦なく減点していった。
「まったく……浮ついておってからに……」
ブツブツと文句を言いながらゴブレットの中身を飲み干した。
「なんだ、セブルスったら…やっかみかい?」
隣に座っているリーマス・ルーピンがさわやかに話かけた。スネイプはギロリとルーピンを睨みつける。
スネイプのことをからかえるのは、ルーピンをおいて他にはいない。というか、ルーピンは一々素直に反論するスネイプとのやり取りが、楽しくて仕方ないのである。
……気が付いていないのは、スネイプだけであった。
「我輩の、どこが、やっかんでいるというのだ……?ルーピンよ……」
ゴゴゴゴ、という怒りのオーラが見えてきそうなほど、スネイプは青筋を立てながら反論する。
ルーピンは見るだけで吐き気がしそうなデザート(ホットケーキ+ストロベリーアイス+ハチミツ+生クリーム+果物どっさり+とどめにチョコレートデコ)をおいしそうに頬張りながら言った。
「うん、背中がねー。独身男の哀愁が、にじみ出てるようで……」
「ルーピン…貴様……」
「寂しかったら、僕のとこに来るかい?今日、トンクスも来るから一緒に食事でも―――」
「貴様は馬鹿か。誰が行くか!第一、お前達は新婚であろう!冗談も大概にしたまえ……トンクスに泣かれるぞ?そんなことをしたら……」
「そうかなぁ…」
「はぁ〜……我輩は失礼する」
馬鹿に構ってられん、という顔をすると、スネイプはナプキンを投げ捨て、大広間を出て行った。背中に怒りのオーラをたぎらせながら。
ずんずんと歩いていく彼を、いくつかの視線が追いかける。
ほとんどがスリザリンの女生徒達である。寮監に対し熱い視線を送っているのだが、スネイプは全く気が付いていなかった。
「やれやれ…朴念仁だね……」
結構モテるのにねぇ……ルーピンはそう呟くと、スネイプが残していったデザートを、ちゃっかりと頂戴していた。
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