何故犯罪を犯すのか……理由を尋ねることは愚かな事だ。
手に入れたいモノがあった場合、私は手段を選ばない性質でね。結果として犯罪に繋がってしまうのは、致し方ないことだろう。
私の名は、ハンス・グル―バー。ロサンゼルスには半年前から滞在している。
ここで資金を調達するために、ある計画を実行中だからだ。
1回の襲撃で最大の利益を得る方法をシミュレーション中なのである。
紙面を広げると、ビルの見取り図を見ながら、策を練っていく。
どうやら、「ナカトミプラザ」を攻略するには沢山の仕掛けを解く必要があるらしい。フ…挑戦しがいのあるターゲットだな…。
「ボス…どうする?パスワードが沢山あるぜ。俺のテクニックでもかなり時間がかかる…」
テオの顔が真剣だった。私はテオに言った。
「それについてはまず、侵入後、高木社長にお聞きしよう。いつもの方法で…」
「いつもの…ねぇ。吐かなかったら?」
テオがニヤリと笑ってきた。
「その場合はお前の出番だ」
「ふふ…りょーかい!」
テオは嬉しそうにPCをいじりだす。アイツはメカオタクだからな。
するとテオがPCのある画面を見て歓声を上げてきた。
「わお!カワイコちゃんだねぇ〜……高木社長の娘かな?」
私はPCを見た。そこには、美しいドレスを着た黒髪の女性がいた。
軽く微笑んでおり、とても恥ずかしそうにしている。
この娘は………。
「その娘は高木社長の姪だ…」
「へ〜姪かぁ。ナカトミプラザで逢えるかな…?」
ニヤニヤしながらPCを見つめるテオに、私は言った。
「にやけてないでプログラムを作れ。テオ、もしものためではない。お前のプログラムがないと、この計画は成功しないぞ」
「わかってるって!お〜こわ……」
私の言葉に、テオは肩を竦めるとプログラムを打ち出した。
*****
この娘がヨシノブ・タカギの姪とは……。私は写真を見つめた。
部下に命令し、隠し撮りさせた娘の写真を眺める。楽しそうな笑顔だった。
26歳か……年齢よりも幼く見える。
この娘もタカギの親戚だ。パスワードを知っている可能性があった。当日、吐かせても良いが……何故か私は、それをしたくなかった。
それに―――、
「欲しいモノが増えた……」
私は苦笑すると娘の写真をコルクボードに留める。
「まずは確認がてら、ご挨拶といこうか?……メイ・シノハラ……」
コートを翻し、部屋を後にする。
私は、欲しいモノを手に入れる為には、どんな手段でも使う。メイ…君の心も、身体も……全てを手に入れてみせよう。
私は自分を笑った。ナカトミプラザへ襲撃するよりも、強く気分が高揚していた。
どんな風に出逢うべきか?
なんと声をかけるべきか?
いくつものシチュエーションが浮かんでくる。
御嬢様のようだから、簡単に騙されるだろう。つけ入る隙は、星の数ほどありそうだ。
私は拳銃を装備すると、車に乗り込んだ。メイを手に入れる方法を、これから考えねばならない。
部下にも知られないように、な……。
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