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▼ ゆらめき

※最終章ネタバレあります。名前変換なし。苦手な方はご注意ください。



昔から、心を閉ざすことには長けていた。
それが、役に立つ時が来るとは。人生は、不思議に満ちている。


冷え冷えとした、地下室の私室。そこで今我輩は、これからのことを思った。
ポッターを守り抜くこと、そして、最後のその時へ導くこと。それが我輩に与えられた使命だった。
今までのところ、完璧に演じることが出来ている、と思う。闇の帝王の目をかいぐり、我輩は、自分なりの方法で彼を見守ってきた。


彼を守りぬくためには、味方さえも騙さなければならない。
もともと、慣れ合いなど好まない我輩にとって、それは願ってもいない事だった。自分のしている事を察せられても困るが、同情や羨望など、まっぴらごめんだったから。それは辱められることに等しい。

何故なら、我輩は罪びとだからだ。
我輩の罪は重い。普通に死ぬことなど、許されない。

だから、我輩が死ぬ時は……思い切り、痛く、つらく、苦痛に満ちた死でありたい。それでもなお、生ぬるいのではないか、と思う。
我輩は、わが命よりも大切な存在を死なせた。彼女の、愛しい幼子を孤児にした。
その罪は、ただ死ぬくらいではとても償えぬ。

吐く息が白い。この寒さは、保管している薬草や魔法薬にとって良い環境であるが、それだけが理由ではなかった。
温かさなどいらぬのだ、我輩には。
この寒さに身を置き、喪服を纏い、ただ、ひたすらに任務を全うする、それこそが、我輩に与えられた使命のはずだ。
それなのに……。

「何故、なのだ……」

心が、軋むように痛い。
痛みなど、とうの昔に忘れた感情のはずだった。彼女を喪ってから。それなのに。ああ、それなのに。

何故、我輩の前に現れた?
どうして、こんな我輩に……嫌味の塊で、優しさの欠片もない、偏見に満ちた男に、微笑みかける?
感情を押し殺すことが、この部屋の冷たさが、横柄な態度が辛いと思わせるのだ……。


出逢わなければ。
そう、お前と出逢わなければ、このような感情を思い出さなかった。

愛しさ。
優しさ。
ときめき。
切なさ。

そして……全てを投げ出したい、という、弱い自分。

「何故、だ………」

持っていた杖が、軋み、歪な音を立てる。いつの間にか、強い負荷をかけてしまっていたようだ。慌てて、手の力を緩めた。
我輩は、ひとり闇の中苦笑する。

愛は死んだ。
そう、愛は死んだのだ。もう、二度と生き返ることなどない。いや、生き返ってはいけない。

我輩は闇の印を刻まれた男だ。お前には相応しくない。これ以上、誰も不幸にしたくはない。
だから……もう、我輩を想うな。嫌ってくれ、他の生徒達のように。ブラックのように。
そうしてくれないと、我輩はもう、バランスを保てない……。



もうすぐ、ポッターがやって来る。
罰則をするためだ。彼は気がついていない。我輩の側にいることが、彼の安全に繋がっている、などということは。
ホグワーツはもはや安全な場所ではなくなった。我輩のようなスパイが、この校内にも解き放たれている。
彼は、ダンブルドアに絶対の安心と信頼を持っていた。そう仕向けたのはダンブルドアに他ならない。
真実を知ったら、あの少年は耐えられるだろうか。いや…耐えられないだろう。自らの出生を、生かされている理由を知ったら、いくら勇敢な彼でも、苦悩するに違いない。
光と闇は隣り合わせ。彼もいつか、真実に向き合わねばならない時が来るだろう。だが今はまだ、その時ではない。
彼は準備が出来ていない。その時へと向かうためには、周到な準備と、そしてタイミングが重要だった。我輩はそこへ彼を導かねばならぬ。誰にも気づかれずに。


さぁ、時間だ。
闇を纏え。心を閉ざせ。優しさなど必要ない。温もりなど、愛しさなど要らぬ。
我輩は……そう、我輩は…、
我が君の忠実な僕、セブルス・スネイプだ。

控えめなノックの後、ドアがキィ、という音を立てて開かれる。

「……スネイプ教授、ポッターです」

いかにも、嫌々なその声に内心苦笑した。
ポッター……君は単純で良い。純粋で穢れていない。出来ればそれが、長く続くことを祈りたい。
我輩は振り返ると彼を見た。見下した目つき、皮肉げに歪んだ口元が、彼を蔑んでいるはずだ。

「……3分の遅刻だ。グリフィンドールから5点減点、ですな」

「………ッ」

我輩の言葉に、予想通り反抗的な目つきをするポッターに、我輩は杖を振り、ドアを閉めることで返事をした。

(H26,7,15)

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