33 誤解してしまいそう
「充実したお買いものだったね〜」
「………」
マダム・マルキンのお店を出た後教授にそう言ったら、彼は目線を合わせようとせず、しかも無言だった。
私と恋人同志にされたのがそんなに嫌だったのかな…。私、調子に乗りすぎたかな…。
急に不安になって、教授に言った。
「セブ……嫌、だったよね、ごめん……」
「………」
「………私、セブにもっと恰好良くなってほしかったの。あ、勿論今でも十分恰好良いよ?!けど、もっと素敵になれるんじゃないかって思ったから…。
ほら、セブって髪の毛黒いし、瞳もそうだから……だから、ああいう色のシャツとか似合うかなって思ったんだけど……」
「………」
「………」
私が話しかけても、教授は無言のままで。
なんだか泣きたくなってきた。絶対嫌われたんだどうしよう…!
そう思ったら、眼の前が曇ってきた。そして、私は気がついたら泣いていた。
「…ううっ………ひっく……」
「!シズノ、お前……何故泣いてるんだ?」
教授、驚いた顔をしてるみたい。
「だって…うう…セブ怒ってる……」
「僕は別に怒ってなんか……」
「ひっく…だって……さっきから何も話してくれないじゃん……」
「それは………」
グズグズと泣いている私を見て、教授は軽く溜め息を付いた。私、呆れられたのかな。ショックすぎる、そう思っていたら。
ぐい、と手を引かれた。
教授はぐんぐんと歩くスピードを上げる。私の手を繋いだまま。
彼の突然の行動に、涙がピタリと止んだ。
「な、ちょっとセブ…ッ」
「………ありがとう」
!
信じられない!教授から“ありがとう”、だなんて。
胸が、ほわんと温かくなった。言葉なんて出てこないくらい、凄く、凄く嬉しかった。
だから私も、彼の手を握り返した。ぎゅっと、力を込めて。
返事の代わりに……。
その後は、教授に付き合って薬問屋へと行った。
彼なら絶対に行きたいだろうと思ったのだ。案の定、教授は見るからに生き生きとしている。
レアな薬草を見つけたらしく、私にはわからない、専門的な話を店主と始めてしまった。
私は薬草を見たり、ぶらぶらしたりしながら教授が満足するのを待った。
ふふ、教授ってばすごくかわいいな…。
*****
シズノが急に泣きだした時、どうしようかと思った。
正直、かなり焦った。泣かせるつもりじゃなかったのに。
返事をしなかったのは、照れくさかったんだ。好きな子と一緒にいるだけでも僕にとっては十分にいっぱいいっぱいなのに、さらに恋人と誤解されたことは許容範囲を超えた。シズノが恋人………そう考え、思考は完全に停止した。
それを、誤解されるとは…。
何も言わず手を繋いだが、良かったのだろうか。シズノは嫌がってはいないようだった。
最初に手を繋いだときから、特に拒否はなかったのでそうしたのだが。
とにかく恥ずかしかったので、早く次の店に行きたかったんだ。
泣き止んだシズノが勧めてくれたので、薬問屋へと足を運んだが……本当に大丈夫だったのだろうかと、僕は内心ヒヤヒヤしていた。
非常に貴重な薬草が売っていたりして、僕としては非常にありがたかったのだが…普通、好きな子と一緒に来るような店ではない。
シズノは特に何も言わず、店に陳列してある薬草を覗き込んで見ていた。会計を済ませるまで、僕に話しかけてはこなかったくらいだ。きっと気を使ったんだろう…。
店を出た後、僕はシズノに言った。
「すまない、シズノ。退屈だったろう?」
すると彼女は言ったんだ。僕に微笑みかけながら。
「ううん、そんなことないよ?セブ、とっても楽しそうだったよね。だから私も楽しかったよ」
その瞬間、僕の心臓はどきーん、激しく高鳴った。
……シズノ、どうして君はそうやって僕の心臓が持ちそうもない言葉ばかり言うんだ?!
どうして君は、そんなに…そんなに……僕に優しいんだ?
そんな言葉で、態度でいられたら、僕だって誤解してしまいそうになる。
本当に、僕の事が好きなのかと、思い込んでしまいそうだ。
確かめてみたい。シズノ、君の気持ちを。
もし僕の事を好きだと言ってくれたのなら、そのときは……、そう考えたとたん、僕は自分の顔が赤くなるのを感じた。
い、一体、今の妄想はなんなんだ?!
僕の脳は腐ってしまったのか?なんて…なんてことを僕は考えたんだ…ッ
(あれ?セブ顔真っ赤……そしてまた無言、みたいな…)
(ぼぼぼぼ僕は一体何を考えているんだ…!)
(H25,09,03)