32 スリザリン流プレゼント方法
「これが似合うかなぁ…」
「シズノ……」
「あ、やっぱり……こっちの方がいいかなぁ…」
「おい、シズノ…」
「!やっぱりこっちか!」
「シズノ!!」
教授の顔が赤い。どうやら機嫌が悪いみたい。
けどそんなの知らないもんね!!だってせっかく教授と一緒にホグズミードに来たんだから、やってみたかったことをするんだもん!!
私は微笑みながら、教授に言った。
「セブ、これとこれとこれ!試着してきてね♪」
「………何故僕が…」
教授が睨んでくる。試着の服を持ったまま、だ。
けど全然怖くない。何故なら頬が真っ赤なんだもん。照れているのがよーくわかった。
だから私は言った。にっこりと笑いながら。
「だってセブが言ったんでしょ?“今日は私に付き合ってくれる”って」
「……………はぁ」
教授はながーい溜め息を付くと、
「試着するのはこれだけだ」
そう言って試着室へと消えていった。
私達は今、マダム・マルキンの洋装店、ホグズミード支店に来ていた。
以前から教授の私服の酷さが気になっていた私が、服を見たいと言って彼を連れてきたのだ。
勿論、教授の服を買うとか、貴方の普段の服装が酷いから…なんて言う訳ない。そんな事を言おうものなら、彼は絶対にこのお店に入ってくれないだろうと思って。
実は教授って、いつも薄汚れた、変わり映えのしない洋服ばかり着ているのだ。
しかもサイズが合ってない。ブカブカなのだ。
それって……成長しても買い替えなくて良いようになんじゃないかなって、私は思っていた。
教授の家庭の事情に詳しくないからわからないけれど、色々と大変なんだろうなって思う。
だから、校長先生に貰ったお小遣いは、教授のために使おうと私は決めていた。
私の物を買ったとしても、いつまでここにいられるかわからないし、ね。
ちょっぴり悲しくなりながら、そんなことを思っていたら。
下着コーナーにセール品を発見!
私の主婦センサーがきゅぴーんと光った。こ、これはチェックしないと…ッ!
****
何故僕が、服を試着しなければならないのだろうか。
今日何度目かわからない溜め息を付くと、僕は、シズノが選んでくれた数着のシャツとズボンを見つめた。
その服は仕立てもよく、着心地も良さそうだ。
色も、僕好みだった。手触りも良い。
断わる理由など、考えつかない。なによりも僕の服を選んでいる時のシズノはとても嬉しそうで、僕はとても恥ずかしい反面、嬉しかった。
家族以外の誰かとこうやって洋服を買いに行くことじたい、初めての事だったし、母と一緒に洋服を選んでもらう時だって、こんなに嬉しい気分にはならなかった。
早く店を出ていきたいという気分になることの方が多かった。
でも今は……。
試着を済ませ、鏡を見た。
すると、いつもの僕とは全然違う、少し大人っぽくも見える僕が、見つめ返してくる。
「とても良くお似合いですよ!あの子、貴方の似合うものがなんなのか、よーくわかってるのね。彼女、かしら?」
店員のその言葉に、僕は首を振った。
「そんなんじゃ…」
すると店員は苦笑すると言った。
「はいはい。裾を合わせるから真っ直ぐ立って頂戴な」
「まだ買うとは決まってない―――」
反論しようとした僕の言葉を遮るように、シズノがひょい、と鏡越しに顔を出した。
「あ!やっぱセブすっごく似合う〜!サイズもぴったりだね。じゃあそれ買い、ね!あとこれも……」
そう言うとシズノは、どこからか持ってきたジャケットを僕に押しつけてきた。
「紳士たるもの、ちゃんとしたジャケットの一枚や二枚、揃えておかないとねっ」
そんな予算はないぞ。僕はシズノに言おうとした。
「シズノ、悪いがそんなに予算はない――」
「あ、これ私からのプレゼントだから気にしないで!」
僕は目を見開いた。プレゼントにしても豪華すぎる。
「何を言ってるんだ、シズノ。こんなに貰うわけにはいかないぞ」
そう言うと、シズノは笑ってきた。
「勿論、タダとは言わないわよ?セブ」
「どういう意味だ?」
眉根を寄せているだろう僕の顔を覗き込むと、シズノは小さな声で、僕に聞こえるように言ってきた。
「その服を着たら……私と一緒にデートできるよ?」
「な…ッ?」
何故そんな、僕が絶句するようなことをサラリと言うんだ?
しかも最後に、
「セブ大好き!」
そんな捨て台詞を残して、どこかへ行ってしまうなんて。
試着室には、僕だけじゃないっていうのに。店員だっているんだぞ?!
「可愛らしい彼女さんね〜」
「……………」
その後どんなに否定しても、僕とシズノはカップルにされてしまったのだった。
(セブの下着を選ぶのって夢だったんだ〜…どれにしょっかな〜?)
(シズノのヤツ……あれじゃあ断れないじゃないか……断れるわけ、ない…)
(H25,08,26)