あなたに逢いたくて | ナノ


 30 ぬくもりの優しさ



すごく嬉しくて、ドキドキしちゃう。

だって、あの教授…セブとデートだよ?!二人っきりで、あちこち見て歩くなんて。



何を着て行ったらいいのかなぁ……。




笑わないで欲しいのだけど、私、実はこの歳になるまでまともなデートなんてしたこともないのです。
一度だけ、友達にどうしても言われて、付き合いでグループデート(?というのかなぁ)をしたことはある。
やたらとしゃべる男で、正直凄く苦痛だったっけ。

そこまで回想して、私はふと考えた。



告白とかしてないし……デート……って言わないのかなぁ?





*****




迷いに迷って、着て行く服を決めて、靴を決めて、髪型に時間をかけて。
普段しない化粧もしてみた。ダンブルドア校長が用意してくれたお部屋に置いてあったのを思い出したのだ。
薄く、グロスを塗ってみる。鏡に映った自分の顔は、少し火照っているようにも見えた。

「……気合い入りすぎ、かなぁ…」


教授に引かれたりして。
そんなことを一人考えながら、待ち合わせの場所へと急いだ。



中庭に行くと、そこにはもう、教授がいたのだった。
スリザリンカラーのマフラーをして、この寒空の下、本を読んでいた。ありえない。雪だって降ってるっていうのに、手袋もしないで、本を読んでいるなんて!
どこまでがり勉なんだ……。

内心呆れながら、私は教授へと駆け寄る。


「お待たせ〜!セブ、待った?」

そう言いながら教授を見上げると、彼は何故か慌てたように下を向いてしまった。本をバタン、と閉じるとボソボソと何かを言っているみたい。
何て言ってるのかなぁ。聞こえないよ。

「?何て言ったの」

「!いや……何でもない」

教授はそう言うと、数歩歩きながら言ってきた。

「それじゃあ行くぞ」

私は教授の背中を見ながら慌てながら言った。

「ちょっと待って!」

そう言うと教授へと駆け寄る。そうして、本を持っていない方の彼の手を、そっと両手で包んだ。

「セブ…手、こんなに冷たくなってる」

「お、お前…ッ」

教授の手はとても冷たいのに、彼の顔はほんのりと赤い。きっと恥ずかしいんだろうな。
でも、このままじゃ風邪をひいちゃうし、なんていっても、私がしたくてたまらない。
なので私はこうしたのだ。


私は使っていた手袋を一つ外し、教授の手にはめた。

「シズノ、これじゃお前が寒いだろう」

駄目だ、と言って手袋をはずそうとする教授を遮り、私はくすっと笑った。
だって……こうしたらあたたかいじゃない?


私はもう一つの手袋を外して、反対の手にはめる。丁度、教授にあげた方の手に手袋をはめなおすと、教授の、手袋をはめている手をぎゅっと握る。
片方の、手袋をはめていない方の手は、コートのポッケに。


「こうしたら、あったかいから大丈夫!」


そう、私は教授と手を繋いでみたかったの。
教授、大人の貴方と初めて逢った時に、そうしてもらったように。今度は、私から……。

怒って手を振りほどかれるかもしれないって思ったのだけど、そうはならなかった。
教授は下を向くと、何も言わずに繋いだ手をきゅっと握り返してくれた。


「………」



恥ずかしくて嬉しい。何て言ったら良いか分からないくらい、嬉しくてどうしようもない。

吐く息はとても白いし、外には雪がちらついてる。
こんなに寒い日なのに、心は信じられないくらい、ポカポカしてる。


私の顔は真っ赤になっているかもしれない。だって、とっても嬉しいんだもの。
教授の顔色もいつもよりずっと良かった。嫌がってはいないみたいだから良かった。


私と教授って、この時点で既にもう身長差があるのだけど、そんなことを感じさせないくらい、歩くスピードがゆっくりだった。きっと、私の歩幅に合わせてくれているんだよね?
さりげなく優しい教授のこと、私、もっと、もっと好きになりそう。


ドキドキのホグズミードデートは、ここから始まったのでした。




(手袋からシズノのぬくもりがする……あたたかい、な…)
(教授って……意外と手が大きいんだ…)


(H25,08,11)



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