あなたに逢いたくて | ナノ


 29 素直になれない



そろそろ、ホグズミードが許可になる時期になった。

いつもなら、僕は一人きりで行っていた。

去年だって、誘いたい相手はいた。その相手は、ずっと変わらなかった。
だが、彼女とは寮も違う。加えて、ポッターの奴がいつも僕の邪魔をしていた。だから、僕は彼女とは一度も行ったことはなかった。


残念に思っていたが、さほど落ち込むことはなかった。そして、それを不思議に思うこともなかったのだ。

今までは、誘いたいと思っても、こんなに胸がおかしなくらいドキドキすることもなかったし、どうしたらいいのか分からないような、もどかしい気持ちになることなんてなかった。


今年、僕には誘いたい別の人が出来た。


リリーに対してよりも、もっと強くて、深くて、大きい、この気持ち。



僕は、リリーのことがずっと好きだと思っていた。
彼女とは、幼馴染だし、一緒にいて楽しかったし、安心できた。
入学して、寮が離れ離れになってから次第に疎遠になって、ポッターの妨害もあってなかなか話す機会が減って。

正直寂しいと思った。たまに、彼女に会うと優しい気持ちになれた。
それが、「好き」なんだと思っていた。そういうものだと思っていた。

僕には、初めての感情だったから…。



だが、シズノが来てから、その感情に疑問を持つようになった。

以前のように、リリーと会っても、話しても……昔に感じていた、温かい、心が落ち着くような気持ちにならない。

逆に、シズノと一緒だと、いつもハラハラする。彼女に振り回される自分に不甲斐なさを感じる反面、絡んでくるポッターやブラックに対して、以前よりも強い不快感を持つようになった。
特に、僕ではなく、シズノに絡まれるとき、その感情は強くて……シズノに触れる手だけでなく、あいつらが彼女を見る視線や、そんなのですら不愉快で堪らない。

二人きりになると、とても嬉しいし、笑いかけてくれるだけで、心がふんわりと優しい気持ちになれるんだ。


シズノと一緒に勉強するときだって、気がつくと僕は、こっそりとシズノを盗み見ている。

大好きな魔法薬学ですら、シズノには敵わない。
彼女が、気になって気になってどうしようもないのだ。

僕が、こんな目に遭うなんて。





きっと、これはそうなんだろう。きっとそうだ。



最初からわかっていた。

初めて、シズノに会った時から、たぶん僕は、僕はきっと――――、



シズノのことが好きだったんだ…。




*****




自分の気持ちを認めてしまっても、どうとなるという訳でもない。

相変わらず、シズノは僕にだけ、やたらとスキンシップが激しいし、「大好き」を連発してくる。
あんなに毎日言われ続けているのに、凄く嬉しいし恥ずかしいし照れくさい。全く慣れないんだ。だって、そんな風に言われたことなんて、僕にはなかったんだ。

母にだって、そんな風に言われたことなんてない。抱きしめてもらったことなんてない。


それに、彼女の微笑みは僕の心臓をおかしなくらいにときめかせ…熱くさせるんだ。

ずるいじゃないか。僕ばかり……君のことを好きになるなんて。
眠れないくらい強く、想ってしまうなんて。



ホグズミードに、どうやって誘ったら良いのだろう。


リリーを誘おうと思っていた時だって、こんないたたまれないような気持ちにならなかった。
けれど……どうしても一緒に行きたい。ここまで強くしたいと思う事自体、僕には初めての事だった。


凄いことなんだな、恋をするって事は。こんなにも僕の感情を、気持ちを、行動を変えてしまうのだから。



女の子に対して、ストレートに感情をぶつけたことなんてなかった僕は、好きだと伝えることもできず、ぐずぐずするばかり。
そんなことをしていたら、いよいよ、この週末ホグズミードという週になってしまう。
僕は何をやっているんだ…。ぐずぐずしていたら、ブラックやルーピンに先を越されてしまうじゃないか。


こういう時、どうやって誘ったら良いのだろう。

僕は思った。こんな事、調べたって載ってないんだろう。どんな本にも。

図書室で宿題をしていても、どうにもこうにも集中できなかった。
どうやら、シズノもそうらしい。彼女は、さっきからずっと、本越しに僕をチラチラと見つめてきていた。


そのしぐさが凄く可愛いなんて思ってる僕は、本当にどうかしているんだ。




内心ドキドキしながら、僕はシズノに言った。言いたい事があるなら言えと。

そうしたら、シズノが言ってきた台詞は、僕の予想を超えていた。



僕と、ホグズミードに行きたいだと?



本気なのか?シズノは、からかっているのだろうか?

そう思ったのだが、その考えは一瞬で否定した僕だった。だって……シズノの頬が、赤く染まっていたから。目が、真剣だったから。


照れくさかった。それに、かなり情けなくもあった。


僕から誘おうと思ったのに、シズノに先を越されるなんて。

だから、こんな返事をしてしまった。


「……別にかまわない」


僕はどれだけ素直じゃないんだ。

本当は、凄く嬉しい。箒に乗って、ホグワーツ上空を飛びまわりたいくらいに嬉しいのに。

ぶっきらぼうに、あんな返事しかできないなんて。




レギュラスにしつこくつけ回されて、その時のことを話したら、もの凄く呆れた顔をされたので、やっぱりどうしようもない最低な対応だったのだろうと思う。


「先輩、ホグズミードでは、せめて手くらい握ってあげるんですよ?」

「手?そ、そんなこと……僕がしてもいいのか?」

「他の誰かがしてもいいんですか?先輩の代わりに」

「駄目だ」

「即答するくらい好きなら、少しは男らしいところを見せて下さいよ…」



何故、下級生であるレギュラスにこんなことを言われなくてはならないのだろうと思いつつ……僕は、週末のホグズミードに向け、思いを馳せるのだった…。



(三本の箒でバタービールを飲んで……それからどうしたらいいんだろう?)
(はぁ……先輩なら、薬問屋にシズノを連れて行きそうですね…)


(H25,08,05)



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