28 ツンデレ流返答
教授とのお勉強の時間になった。
いつも通り、勉強をする場所は図書室だった。ここだと、分からないことがあった場合すぐに本を探しに行けるから便利なのだ。
それにとても静かだ。談話室で勉強していると、レギュラスとかルシウス先輩とかが絡んできて正直ウザイ時があるしね。
みんなが、教授と二人っきりの時間を邪魔するんだもの。
勉強の邪魔、と言わないところが乙女ゴコロなのでした。
そんなことを考えながら、呪文学の教科書越しに、教授を盗み見る。
さっきから私は、教授をどうやってホグズミードに誘おうか、そればかり考えていたりする。
だって、どうやって誘ったらいいの?
『私と一緒に行ってくれない?って普通に誘えばいいのかな……でも……拒否られたらめり込む程落ち込むんですけどぉ…』
思わず、日本語で声に出してしまった。その言葉を聞いた教授が、羊皮紙から顔をあげた。
サラリ、と黒髪がなびく音が聞こえる。べとべとの髪だなんて誰が言ったんだろう?こんなに綺麗なのに。
こんなにサラサラで、良い匂いもするのに―――。
「シズノ、分からない所でもあったのか?」
「へ?なんで?」
そう尋ねた私に、教授は溜息を付いてきた。
「さっきから、羽ペンが全然動いてないだろう。おまけに、僕には分からない言葉で何か言ったじゃないか――」
「わーんごめんなさい!やります勉強しますごめんなさい〜〜〜!」
ひええ聞こえてたんだまずいよね!
私は慌てて教授にそう言うと、呪文学の教科書に顔を向けた。
わかるはずないでしょ確かに教授ってば僕にはわからない言葉で何か言ったって言ってたんだから分かるわけないって落ち着いて私ッ!
そんなことを脳内に羅列していたら、教授は羽ペンを置いてしまった。
?なんで?
「セブ……どうかしたの?」
私のその言葉に、教授はボソリ、と言ってきた。
「シズノ……言いたい事があるなら言え」
どっきーん、と胸が大きな音をたてましたよ!
なんで教授ってばそんなこと言うんだろう……。衝撃のあまり、羽ペンを振り回してしまった。辺りに黒いインクが飛び散てしまってるみたいだけど今そんなことどうでもいいって感じ。
「な、なんのことでしょう……」
明らかに目が泳いでるって!自分でもヤバイって思ってるって!
「お前な……」
教授はそう言うと、はぁー、と盛大に溜息を付いてきた。
「宿題をすると言って図書室に来たのはいいが、全く、全然、勉強なんてしてないじゃないか。それだけじゃなく、僕のことをジロジロ本越しに見つめて……。シズノ、僕に喧嘩を売ってるのか?」
!
なんという誤解!そんな訳ないじゃんか!!
私は慌てて首をブンブンと振ると速攻で否定した。
「喧嘩なんて滅相もない!」
「じゃあなんで勉強せずに僕ばかり見るんだ」
「そ、それは……」
両手から有り得ないほどの汗が出てきたよ!手汗人間だよ!!今教授より年上設定のはずなのにどうして彼はこんな迫力があるんでしょうか、しかも子供の頃から。
という訳のわからない心理状態になった私は、止せばいいのに言ってしまったのだった。
「あの…ッ」
「……なんだ」
「し、週末私と……」
「シズノと……なんだ?」
教授のばか!朴念仁!!
女の子から言わせるなんてヒドイ!ねっとりスニベルスめ〜〜!!
「週末私とホグズミードへ行って下さい!お願いしますッ!!」
日本では、清水の舞台から飛び降りたつもりで…ってよく言う表現だと思うけど。
そんな軽いもんじゃないのよ。東京スカイツリーから飛び降りるくらいの勇気が必要だった。
ああ、なのに教授ってばそっけない!
「……別にかまわない」
「やっぱ駄目ですよね〜セブってば心に決めた人がいるからやっぱな〜……って……へ?」
私の聞き間違いデスカ?
思わず、ハニワ顔になった私に、教授はフン、と鼻を鳴らすと言った。
「だから…ちゃんと聞け!僕は………別にかまわない」
「マジで?!」
「だからそう言ったろう!シズノ…なんだその目は…」
きききき聞き間違いじゃなかったみたい!
「セブ大好き〜〜〜!!」
「!」
私、教授を思いっきり抱きしめてしまいました。
(わかった…わかったから離れろ馬鹿!)
(だだだってマジで嬉しくて〜〜〜!やばい…涙出てきた…)
(!な、泣くな馬鹿…)
(ありがと…セブ……)
(………フン)
(H25,07,19)