25 ガールズトーク 1
教授に避けられていると思っていたんだけど、シリウスとのあのコトがあってから、教授は何故か優しくなった。
いや、元々優しかったよ?ぶっきらぼうだったけど。
けど、最近はただ優しいだけじゃなくて…。
気が付くと、何故か私のことをじーっと見つめてくるの。
「どうしたの?」
って聞くと、慌てたように、
「なんでもない」
って言うのよ?
二人っきりの時は、時々だけれど手も繋いでくれる。
教授は、あまりスキンシップをしない人だと思っていたんだけれど、教授から手をつないでくれると凄く嬉しいので、私は教授の手をぎゅっと握り返すと、ブンブン振ってしまうのだけれど。
「シズノ…痛いだろ」
「えへ〜……だって嬉しいんだもん!」
「………フン」
そう言いながらも、耳がちょっと赤いの。教授ってば……可愛いわね……。
そんなほのぼのした毎日を過ごしていたりしたのでした。
*****
そんなある日。
放課後、いつものように図書室で勉強しようとしていた私に、話しかけてくる人がいた。
私、凄く変わった人だと思われているみたいで、違う寮の生徒ではいたずら4人組か、リリーくらいしか話しかけてくる人が居なかった。
ま、ぶっちゃけ教授以外どーでもいいから助かってるけど。
振り向いた先にいたその人は、リリーだった。綺麗な赤毛とグリーンの瞳。リリーって凄く綺麗よね…。教授が好きになるのも解るし、メガネが執着するのも解るかも。
私だってもしも男だったらほっとかないよ絶対。
「シズノ、今いいかしら?」
声だって可愛らしい。神様って不公平だと思うの。
「勿論、構わないよ?リリー、何か用事でも?」
そう返した私に、リリーはニコニコ笑いながら言ってきた。
「おしゃべりしない?美味しいケーキが手に入ったの!」
連れてこられた場所は、城のはずれにある花畑。ホグワーツにこんなきれいな場所があるなんて……。
うっとりと見とれていると、お茶を注いでいたリリーが言ってきた。
「ここ、綺麗でしょ?」
「うん、すっごく綺麗…。おとぎ話に出てきそうな感じ」
私の言葉に、リリーはにっこりと笑う。
「この花畑、セブルスが作ってくれたのよ?」
「えーマジで?!」
教授、やるじゃん。
驚いた顔の私に、リリーは笑ってきた。
「ここに来て…私、ホームシックになっちゃって。しょんぼりしていたら…セブルスがね、何も言わずにここに連れてきてくれて…」
「セブってばホント優しいよね…」
ちょっと妬けちゃうけどね。
だけど教授はリリーのことが大好きなんだからしょうがないよ、うんうん。自分にそう言い聞かせていたら。
「そうよ!セブルスは本当に優しいのよ?!」
リリーの目が輝いております。
どうしたんだろう。急に元気になっちゃって。内心たじろきながら言葉を返す。
「う、うん…そうだよね」
「顔色がちょっとアレだけど、頭も良いし…」
「セブは頭良いよね…確かに…」
力説しながら、ケーキを取り分けるリリー。
「凄く、大切にしてくれると思うわ」
「そうだよねー…手先も器用だから、薬草の取り扱いとかもすっごく大切に丁寧にしてる―――」
「もぉ、そっちじゃないわ!!」
バン!!
会話を遮られたばかりじゃなくて、テーブルまで叩いてきたリリー。衝撃でケーキが踊る。
びっくりするじゃないの!リリーったら急にどうしたの?
驚いた顔をしている私に、リリーは溜息をついてきた。
「確かに、薬草の取り扱いは丁寧かもしれないけど、私が言いたいのはね……」
「言いたいのは…?」
どき。なんだろう……なんだか胸がドキドキしてきたよ……!
「シズノ、大好きな女の子のことは、とっても大切にしてくれるってことよ!」
「あー…そうだよね。きっとそうだと思うよ、私も…」
ケーキをぱくつきながらそう返した私に、リリーは目をぐるん、と回すと天を仰いだ。
「もぉ…!どうして貴方はそんなに鈍いの?!」
「鈍いなんてことはないと思う……けど…」
なんでそんなに呆れているのか、よく解らないんですけども。
戸惑う私に、リリーはままたもや溜め息をついた。そうしてフォークを持つと、ケーキ、ではなくて私に向かってそれを振ってくる。
「鈍いに決まってるでしょ!!私が言いたいのはね、セブルスが大好きな女の子は、シズノ、貴方だってことなのよ?!」
「え〜うそぉ?!んな訳ないない!有り得ないでしょ!!」
「なんでそんな事解るの?シズノ、貴方ってとってもキュートよ?」
リリーにそんな事言われるなんてどうしたらいいんですか。
もう、ケーキや紅茶をたしなむどころじゃない。リリーってばこれを言いたくて私を誘ったのね……。恐るべし、百合!!
けど誤解は解いておかないと駄目じゃないかなぁと思った私は、ついつい、口がすべりかけてしまう。
「キュートかどうかはわかんないけどさ……セブが好きな人って………他にいるんじゃないかなぁ」
「誰よそれ…。貴方以外の人、私は考えられないわよ?第一、貴方と一緒にいるときのセブルスってとても嬉しそうよ?あんなに嬉しそうなセブルス、見たことないもの」
嬉しそうなの?教授。
「私と一緒だと嬉しそうな顔してるの?セブってば」
信じられない。
私、そんな表情をしていたんだろう。リリーはケーキを一口頬張る。口元をモグモグさせながら言ってきた台詞に、私は飲んでいた紅茶を吹き出しそうになった。
「耳なんか赤くさせちゃって…照れているけど嬉しいって証拠なのよ?あれ…。幼馴染の私が言うんだから間違いないの!
セブルスは好きじゃない子と手なんて繋がないんだから!」
「やだ……リリーったら見てたの?」
私達が手を繋いでいる所、見られてたんだ……。なんかはずかしー。
「あんなにイチャイチャしてたら嫌でも目に入ります」
そ、そんなにイチャイチャしてたのかしら…。
「それで……私が本当に聞きたいのはここからなの!!」
何故かリリーの目が爛々と輝きだした。なんか凄い迫力あるっていうか…なんていうか……リリーさん……怖いです!
ゴクリ、と喉を鳴らした私に、リリーは言ってきた。
「シズノ……貴方、セブルスのこと、どう思ってるの?」
(H24,08,11)