23 どう思ってるんです?
ある晴れた昼下がり、談話室で本を読んでいた僕に、レギュラスが話しかけてきた。
めずらしく、談話室は空いていた。皆、クィデッチの練習試合を観に行っているらしい。
僕はあまり興味がないので、最近読み進めている魔法薬の本を読んでいるところだった。
「スネイプ先輩…ちょっといいですか?」
レギュラスが僕に話しかけてくること自体稀だったので、僕は内心驚いた。
「かまわないが…何かあったのか?」
僕の言葉に、レギュラスが笑う。僕の隣に腰掛けながら、彼は、何でもないというようにさりげなく爆弾を落としてきた。
「ええ、どうしても確認しておきたくて。先輩は……シズノ・ニイザキのことをどう思ってらっしゃるんですか?」
とたん、胸がドキリとした。何故なら、最近僕の頭を悩ませている人の名前が出たからだ。
「どうって……別に普通だ……」
言い返しながら、胸がドキドキしてくる。
するとレギュラスは苦笑しながら言い返してきた。
「………本気で言ってるんですか?それ…」
「本気に決まっている」
「ふぅん、そうですかー。先輩、そんなに捲ったら本が壊れますよ?」
レギュラスが指さしながら言ってきた台詞を考えながら、僕は自分の手元を見た。
いつの間にかページを捲りまくっていたらしい……僕は一体何をしているんだ。
「こ、これはたまたま――」
「はいはい言い訳はどうでもいいですから。ちゃんと自分の気持ちに向き合わないと、彼女、獲られちゃいますよ?結構人気あるみたいですし」
人気があるのか?シズノが?
「意外な顔してますね?でも、上級生にも人気ありますよ彼女…。勿論、下級生にも。どうやらマルフォイ先輩も狙っているようですし―――」
「なんだって?!」
「あくまで噂ですけどね。じゃ、僕は忠告しましたからね」
レギュラスは言いたいだけ言うとさっさと談話室から出ていってしまった。ショックを受けている僕を放置して。
シズノが人気あるだって?
あの、一風変わった所のある、僕にばかりちょっかいをかける奴だぞ?
隙あれば、僕と腕を組んだり、頬にキスしたり……僕の食べかけのお菓子を食べてしまうような奴なのに…。
どんなに遠くにいても、僕を見つけると彼女は嬉しそうに笑いながら手を振ってくる。
「セブ!やっほ〜」
山じゃないんだ。やっほーって何だやっほーって。
息を切らせながら僕の側に来て、楽しそうに話をするんだ。
生き生きとしたシズノの表情…笑い声……そんな表情を見せてくれる人が僕の隣にいるなんて。
僕は……スリザリンの中でも浮いている存在なのに。
いくらシズノだって気が付いているだろうに……そんなそぶりは全く見せることがない。
彼女は、僕と初めて逢った時からずっと、態度を変えない。
何故か嬉しそうに…僕を見て微笑んでくれる。
そんな子、リリー以外にいなかったんだ…僕には。
だから、酷く戸惑ってしまう。
僕は、リリーのことが好きだった筈なのに……最近考えることは、シズノのことばかりだ。
図書室に行けば、あいつにわかりやすい本を探したり。
授業では、別ノートを取って、放課後復習したり。
一緒に宿題をしながら、気が付くとシズノのことを見つめてしまったり。
大好きな魔法薬学よりも、シズノのことが気になって仕方ないなんて。
リリーのことは……今でも好きだ、と思う。彼女に逢えた日は、話しかけられた時は嬉しい。ホグワーツに入学してしまってから、寮が離れ離れになってしまったから、話す機会なんてさほどないのだが。
嬉しい気持ちはあるのに……。
なのに、シズノのことも気になってしょうがない。
あの日…談話室でうたた寝をしていたシズノを起こしたら、何故か彼女は僕を見て泣き出してしまった。
いつも笑顔を絶やさないシズノの泣き顔に……僕の胸はズキンと痛んだ。
どうして泣くんだ?誰がお前を悲しませたんだ?
そう、聞きたいのに……何故か聞くことが出来ない。
シズノが泣きながら言っていた、「逢いたい」相手が誰なのか…気になってしょうがない。
逢いたくてたまらない相手が、いるというのか…。
僕に、あんなにくっついてきて、嬉しそうに笑ったりするのに…なのに、逢いたくてたまらない相手がいるというのか…。
名前のわからない、その相手に対して、僕は何故かイライラしてしまう。
誰だ?誰なんだ……シズノ……。
僕は、溜め息を付くと本を閉じる。
どうしたらいいんだ……こんな気持ち、初めてなんだ。
胸が苦しいくらい…シズノ、君の全てが気になるだなんて……。
(H24,04,21)